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「おかえり、宍戸。」
そう言って宍戸の頭に青い帽子を被せた。
驚いたように振り返った宍戸の顔には紙面上で見慣れたあの、傷がある。
原作どおりにレギュラー落ちして、原作どおりに戻ってきた宍戸。
でもこの話がなければ、日吉がレギュラーになることも、滝がレギュラー落ちすることもないのだ。
紙面上ではあまり考えなかった。
ただ、長い物語の中のフラグの一つでしかなかった。
でも、でも。
レギュラー枠が9人だったらいいのにとあり得もしない幻想に縋ってしまいたい。
宍戸が戻ってきて、嬉しい。
滝がレギュラー落ちして、悲しい。
どれも、あたしがどうこう言える物でもないしあたしには理解出来ないことだ。
その悔しさも、嬉しさも、悲しさも、愛しさも全部ぐちゃぐちゃで頭が回らないのに、スッキリしていて。
そんな風に収集がつかなくなったあたしは堪らず宍戸の胸にとびこんだ。
「うぉっ・・・っ!?」
宍戸は短い悲鳴をあげて、それからあたしの背へと腕をまわした。
後ろから無理やりに被せた青色の帽子は、少し斜めに傾いている。
宍戸はそれを片手で直しながら、あたしの頭を撫でた。
それから、少しだけ自嘲の混じった声色で激ダサだといつものように零す。
あたしに言ったのか、宍戸自身に言ったのか。
多分その両方に言ったのだと解釈して、あたしは、笑った。
泣き笑いのように眉が歪んでいたのが自身で分かって、尚更視界が滲んでいく。
泣くな泣くなと、繰り返す度に込み上げる感情を名付けられる程の語彙力があたしには備わっていなかった。
終いには、考えることを放棄してそっと宍戸から離れようと彼の背中に回した腕をほどく。
そんなあたしを見届けた後、宍戸がただいまとそれこそあたしと同じように眉をひそめて紡ぐものだから、とうとう涙が溢れだしてしまって再び宍戸の胸へと顔を埋めた。