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side Yuri

チッと小さな舌打ちを呑み込んだ。
窓の下を覗くと、宍戸亮と早咲夢羽の姿がある。
テニスコートへと続く道でただ抱きしめあっている2人は邪魔にしかならないはずなのに、周りはそんな素振りを微塵も見せずに進んでいく。
それは、2人を疎ましく思っているとかそんなものではなくて恐らく真逆の、愛おしいから邪魔が出来ないといったそんなものだろう。

実際、この氷帝に転校してきてからの数日は良かった。
日吉の隣の席になったのに日吉の私に対する態度が芳しくなかったのを差し引くと、おおよその生徒は私に堕ちたはずだ。
今もこうしてただ窓の下を覗き込む私に合わせて数人が足を止めている。
ただ、名前を呼んだだけにも関わらず。

その光景に跡部率いるテニス部が加わるのも時間の問題だと思っていたのに、そうもいかない。

目下のあの女のせいで。

何度か日吉の名前を呼んでしまおうと口を開いたが、そのどれも紡がれる前に切り捨てられる。
その時に震える唇を隠して必死に虚勢を張る日吉が小さく夢羽さんと零していたのを何度か見た。
それに何度舌打ちしようとしたことか。
彼はまるで酸素を求めるように早咲夢羽を求めるのだ。
本能的に、それでいて理性的に。
夢羽さん以外はいらないとでもいうように。

そんなの、認めるわけにはいかない。
私は彼らに愛されるべくしてここに存在しているのだから。
どうにかうまく彼奴からあの立場を奪わないといけないのだ。
できるだけ隠密に、1人で。

「百合ちゃん?」

どうたものかと思考を巡らせていると痺れを切らしたのか取り巻きが声をかけてくる。

「あ・・・っ、ごめんなさい。知ってる人がいたから、えっと、その・・・。」

早咲夢羽から視線を外して控えめに紡ぐとそいつは罰が悪そうに頬を掻いた。
それから、他の取り巻きが先程の私と同じように窓の下を覗き込む。
それからどこか納得したように頷いた。








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