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なんとなく、なんとなくだった。
本当に何気なく上を見上げた。
多分、涙を堪えるために。
宍戸の顔を覗き見たかったのかもしれない。
とにかく理由がわからない程にはなんとなくだった。

ちょうど真上の窓際には早乙女さんと数人の生徒が居て、目が合う。
どうやら上の人たちはあたし達を見ているらしい。
窓を挟んだその人達は、あたしの視線に気づくと手を振った。
それに宍戸は気づいていない。
ただ、彼らはあたしに嫌悪感は抱いていないのだと判断ができる。その根拠が手に入ったと言っていいだろう。
嫌悪感を抱く人間に、あんなにも笑顔で手を振ることができるだろうか。
それほどまでに、彼らは道端で見かけた友人のようにあたしに接するのだ。
早乙女さんがいるにも関わらず。
それは、パンドラの匣に眠る希望のように微かな光だった。
少なくとも、今のところ彼らは敵ではないのだ。
早乙女さんに好意を寄せるだけの、友人。
言ってしまえば、友人と呼ぶのすら謀られる関係なのだけど、圧倒的に早乙女さんの味方が多い今だけは友人であってほしい。
そんな願望でしかない。

未だに笑顔を向け、手を振ってくれる彼らに、あたしもまた、手を振りかえした。
そこで漸く宍戸は彼らに気づいたようで、あたしに倣って片手をあげかけて、やめる。
きっと、早乙女さんを捉えたのだ。
彼の、そのほんの少し濡れた瞳が。

あぁ、どうしてあたしはこうも彼女を敵と決めつけるのだろうか。
日吉に手を出した所であたしが怒るのは筋違いだと言うのに。
それではまるで、日吉はあたしの所有物だと宣言しているようなものではないか。
ものではないと、紙面上の人間ではないと本気でそう思っていたのは嘘だったのだろうか。
どこか心の奥底で、彼らは“生きていない”と思ってしまっているのだろうか。
そんなはずはない。
だって、目の前にいる宍戸はこんなにも温かいというのに。
作り物だなんて信じない。
そう自分に言い聞かせることすらも、偽りのような気がした。
否、寧ろ言い聞かせると言う行動自体が失礼で、いけない。

急にグイッと腕を引かれた。
そのお陰で現実に思考が戻ったあたしの視界には、宍戸の背中。
あぁ、早乙女さんの居るあの場にあたしを置いておきたくなかったのかとそう判断するのは自意識が過剰すぎるだろうか。
ただ、そのお陰で分かったのだ。

あたしは、早乙女さんが嫌いだ。








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