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部室の入口のすぐ横、一応扉を開ける時に邪魔にならないように気をつけて壁に背を預ける。
そのままずるりと力が抜けたようにしゃがみ込んだ。
空は既に茜色に染まっていて、なんとなくあたしの思考を後ろ向きにする。
夏が始まったばかりのこの季節。
人肌が恋しくなるのはまだ先だと思っていたのに。
「恋しいなぁ・・・」
当たり前のように彼らと着替えの時間はずらされる。
あたしは、回収したドリンクボトルを洗うついでに着替えてしまうから、忍足が着替え終わるのを待たなければいけない。
まぁ、別に待っていなくても所詮は一緒に帰る目的が達成されないだけで何の支障もないのだけど、そうじゃないのだ。
一緒に居たい。
この忍足を待っている時間と一緒に下校する時間を比べたなら、確実に下校する時間の方が長いはずなのに。
忍足を待っている時間は、とても長くて忍足があたしを避けて態とゆっくりしているのではないかと、それでも待っているあたしはかなり重い女だとは思われていないかと考えてしまう。
それでも、好き、なのだ。
カタリと軽い音を立ててあたしのすぐ横の扉が開いた。
開けたのはあたしが待ち焦がれていた人物だ。
「・・・どないしたん?」
忍足は座り込んでいるあたしに疑問を持ったのか、目線を合わせるように屈んであたしの頭をぽんぽんと撫でる。
それだけで、あたしの暗い思考はたちまち離散する。
「着替え中にあたしが乱入したら、君たちがどんな反応するかなーって考えてた。」
カラカラと笑い混じりにそう言えば、忍足は安心したように口元を綻ばせた。
この、淡い笑みがあたしは大好きで、最近になって見せてくれる頻度が上がった事実に素直に喜びを感じる。
あたしはそのまますっと立ち上がってにこりと忍足に笑みを向けた。
「忍足ママがさ、今日はあたしの好きな物作ってくれるって言ってたから、早く帰ろ!」
せやな、と一つ肯定して忍足は立ち上がる。
彼が立ちあがるとあたしとの身長差が顕著に現れるけれど、彼らとの身長差は見下ろされる感覚がなくて心地いい。
それ程までにあたしは彼らに呑まれているのだ。
あたしは当たり前のようにあたしと手を繋いで並んでくれる忍足とゆっくりと帰路を辿った。