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side Yushi
部活が終わってすぐ、レギュラーの部室に駆け込む。
まぁ、理由はあれや。
夢羽ちゃんを待たせとるから。
1度も待っといて、なんて言うた事はないんやけど夢羽ちゃんは毎日部室の入口のすぐ横でぼーっと空を見上げとる。
それがなんとなく申し訳ないから、最近は部活の休憩時間を利用してできるだけ早よう帰れるように工夫はしとるんやけど、やっぱり俺らより先に着替えを済ます夢羽ちゃんに敵うはずもない。
きっと、辛いはずなんや。
そう思っとっても、ほんの少しネクタイを締める手の動きが遅いんは、俺の姿を見つけた瞬間の、あの笑顔を見たいから。
パチリと大きな目を細めて赤い唇をゆったりと弧を描くように歪める。
夢羽ちゃんの笑顔と言うたら、あの、ニカッとした謙也みたいなんが目立つけど何もあんな男らしい笑みだけやない。
ほんのりと口角を上げる優しい笑みや、大口開けて爆笑することももちろんある。
表情豊かな夢羽ちゃんやから、きっと俺の知らん表情なんてまだまだあって、俺らの心を掴むんやろう。
「侑士、早く行ってやんねーと夢羽拗ねちまうぞー!」
岳人の言葉でネクタイを締める自分の手が止まっとる事に気づいて少し慌てて着替えを再開する。
表面だけはいつものポーカーフェイスを気どって。
「ほな、お先。」
いつものようにひらりと手を振って背を向けるとそれぞれが色んな反応を返す。
まぁ、俺宛というよりは夢羽ちゃん宛なんやけど。
それを苦笑いで受けとめてドアを開けると夢羽ちゃんがいつもの笑顔で受けとめてくれた。
細められた栗色の瞳に、夕日が反射してほんのりと赤色に染まる。
それが、いつもは微塵も感じん夢羽ちゃんの怪しげな色香を匂わせた。
あぁ、この子は、明日の結果も知っとるんやろうか。
聞いたところで返ってくるんは、寂しげな沈黙だけやろうけど。
それを分かって彼女の手を取った。
小さいこの手が、女子にしては少し大きめなんに気付いたんは、いつだったかの彼女と比べたからか、夢羽ちゃん本人がひらひらと手を揺らしながら宣言していたからか。
初めて会ったときよりも少しだけ焼けた肌が俺心を躍らせた。
元々インドア派な夢羽ちゃんの肌が焼けるいうことは、それだけ俺らが彼女を連れ出しとるいうこと。つまりはそれだけ、俺たちは時間を共にしとるということになる。
「夢羽ちゃん。」
鼻歌混じりに今夜の夕飯のメニューを連ねる夢羽ちゃんを引き留めるようにして立ち止まった。
明日、どうなるん?
無意識に続けようとしとった言葉を吞み込む。
聞いたら、あかん。
聞いたところで未来は変わるし。未来は、変わる、し。
あかんわ、負けることしか考えてへん。もし俺たちが勝つ未来なんやったら、未来を変える必要なんてあらへんやん。
それやのに、俺は。未来を変えることしか考えてへん。それは、俺が勝利を信じていないことやないか。
俺の言葉の続きを待つように、見つめ返す彼女に、何でもないっちゅう意味で軽く首を振った。
そのまま繋いだままの手を掬い上げて軽く口づける。
「君たちは全国に行くよ。絶対。」
「せやな。」
そんな短過ぎる会話を交わして、どちらともなく息を漏らすと何事もなかったように帰路についた。
勿論、手は繋いだままで。