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ジリジリと露出した肌を太陽が照りつける。
あたしは日焼け止めがあまり得意ではないから重ね塗りなんてすることはまずないのだけど、今日ばかりはそうも言ってられない。
関東大会初戦。運命のこの日。
原作通りにいって欲しいのか、それとも。

「・・・夢羽。」

不意に呼び止められたその声に従って振り返るとそこには青学のレギュラージャージに身を包んだお姉さまの姿。
あぁ、やっぱり。
彼女はマネージャーなのだと安堵した。
ここにきてあたしの勘は鋭くなったのか。

「オーダー、変えたの?」

キッと睨みつけるような視線をよこしながら不躾な質問を繰り出すお姉さまとあたしの間をねっとりとした空気が通りすぎる。

「変えて、何になるの。」

じりじりと肌を焼き付ける太陽にイラつきにも似た感情を抱きながらも視線はお姉さまから移さない。
きっとあたしの視線も睨みつけるようなものになっているだろう。

「オーダーを変えたところで青学メンバーより強くないと意味がない。だったら、あたしは氷帝の彼らを信じたい。」

本当のことを言うと、嘘を、ついた。
全てが嘘だというわけではないのだけれど、全て本心だとも言えない。
本心を言うとするならば、あたしのような小娘の一言が世界を動かすという確信を得たくなかったのだ。

もしも、あたしがオーダーに口出しをして氷帝が勝ったとしたら、あたしの発言には世界を変えるだけの力があるということになる。それが、怖いのだ。
オーダーを変えて氷帝が負けるのならそれでいい。あたしの発言に未来を変えるだけの力がないだけだ。
だけど、もし力があったとしたら。

そのもしもがあたしは何より怖い。
未来を変えたいかと言われたら、変えたくないと即答できる。
だって彼らは敗北を乗り越えるだけの強さを持っている。あたしはそう信じているのだ。ひどく一方的な押し付けだったとしても。

「勝つわよ、青学は。」

「・・・うん、きっと。」

その一言が裏切りになるだろうとは感じていた。
彼らの頑張りをあたしはたった一言で否定したのだ。
あんなに頑張っていたのに。あんなに怪我だってしたのに。
練習メニューに文句を言っていたこともあった。ドリンクの予定外の追加を頼まれたこともあった。
泣いていた、笑っていた。皆必死だった。
それを、たった一言で。
くだらないと一蹴したようなものだ。

お姉さまはそれだけを言うために来たのか踵を返した。
あたしもそれに倣う。

「・・・・・・あぁ、そうだ。夢羽のところの転校生、私も嫌いよ。」

ついでとばかりに呟かれた言葉に足を止める。
クルリと体をお姉さまの方へと向けると、お姉さまの姿は消えていた。
きっとすぐそこの角を曲がったのだろう。
それにしても。

何故美羽が早乙女さんのことを知っているのかが分からなかった。
分からなかったけれど、そのお姉さまの一言は酷くあたしを安心させた。
まるで、嫌ってもいいのだと許可されたようで、例えようもない安堵感が胸いっぱいに広がる。

嫌いだと、思った。早乙女百合を。
それはきっとあたしだけだと錯覚していたのだと気付いた。
全員が全員、同じ人を好きだというのはあり得ない。
そんな当たり前の事ですら、ふと気付けば忘れている。

あぁ、とてもすっきりした気分だと空を仰ぐと、カラッと晴れた空があたしの視線を奪う。

青い、青い空があたしに問いかけた。
早乙女百合をどうするのかと。

原作のこと、早乙女百合のこと。
考えることは山程あるけど、その中でどれだけ答えが出せるのだろうか。

原作を変えたくないからといって手を出さないわけにはいかない。
そもそも、あたしや宗像の存在は既に世界を歪ませているのだから。

早乙女百合も。彼女もあたしに何か害があるのかと言われれば害は、ない。
あたしが勝手に彼女を嫌っているだけだ。
だからと言って、彼女をどうこうする権利はあたしに存在しているはずもない。
勿論それは跡部達にも言えることだ。

いっそのこと、誰でもいいからあたしのこのぐるぐると回る思考の模範解答でも用意してくれはしないだろうか、とくだらない言い分を呑み込んであたしは目の前の運命へと一歩踏み出した。












 

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