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□ずぶ濡れの恋心
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目の前をしきりに降り続ける雨を眺めてため息をついた。

やむ気配もなく、俺は仕方なく雨の中へと足を踏み出す。
正門を抜けたあたりにはもうずぶ濡れになっていて、ここまでくるといっそ清々しい気さえしてくる。

雨の降っている世界はいつもの世界にほんの少しだけ影を落とした。
モノクロの世界が嫌いだといつも思うのに、今日はなんだか足取りも軽やかで、
体が濡れるのも構わず無意識に遠回りの道を選ぶ。

「幸村くん、風邪ひくよ?」

背後から聞こえた声と同時にモノクロの世界に朱色がさす。
見ればそれは傘で、俺に差し出しているのは名字さんだった。

名字さんはそのオレンジ色の傘を俺に押し付けて、自分は急ぎ足で少し先で待っている紺色の傘に飛び込んだ。

この光景を見るのはもう何度目かなんてわからなくて、ごまかすように名字さんとその隣の男から目をそらす。
そらした先に見えた世界は、さっきとは打って変わって真っ暗で、なんだか悲しい。
それでもモノクロの世界の中の朱色の傘だけは鮮やかで。

「・・・こんなに、好き、なのになぁ。」

傘をさしているはずなのに、俺の頬には雫が滴る。
彼女のことがこんなにも好きなのに。
それでもこの想いが彼女に届くはずもない。

「・・・明日、何て言って返そうか。」

ぎゅっと手を握り締めると、はっきりと傘が存在を主張する。

雨の中佇んでいた先ほどよりも、
今の方が俺は寒くて思わず二の腕をさする。

それでもやっぱりずぶ濡れになった心があったまることはない。

名字さんに、好きだと言えたらどんなに楽か。

今はただ、灰色に染まった空を仰いだ







ずぶ濡れの恋心

後悔という名の雨はやむこともなく











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