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□揺れる傘揺れる恋
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諦めると、そう決めた。
名字の隣で笑う男が俺にとってあまりにも大切なヤツだったから。

つかみ所がないクラスメイト。
今まで女に興味なんか示さなかったくせに、よりにもよって俺の好きな女を奪っていった。
嫌いになってしまえば楽なのに。

最悪だなって言ってしまえば楽なのに。

「雅治くん。」

名字があまりにも幸せそうにその名前を紡ぐから。
ついこの間まで“丸井くん”と呼んでくれていたその口で。

少し後ろで仁王と名字が一緒に帰ろうとしている気配がした。
窓に視線を投げると悲しいくらいの雨。

こいつらは相合傘でもして帰るのだろうか。
幸せそうに。

まだ机に座って帰る気配が微塵もしない俺を特に気にするでもなく横切って2人が教室を出て行った。

今までなら、“また明日ね”と笑って声をかけてくれたのに。

(・・・惨めすぎるだろぃ)

あんなに仲が良かったのに、彼氏が出来たらポイかよ。

思わず口からため息が零れてゆっくりと立ち上がった。
そのまま再び視線を外へと向けると黒い傘の中で笑う名字と仁王の姿が見えて息を呑む。

諦めると、そう決めた。
諦めると、そう決めた。
名字の隣で笑う男が俺にとってあまりにも大切なヤツだったから。

ゆれる傘の中で笑う名字の笑みがあまりにも綺麗だったから。

だけど、だけど。

「・・・好きだぜぃ。」

諦めきれない、この気持ち







揺れる傘揺れる恋

諦めようとすればするたび大きくなるこの気持ちが

あまりにも残酷で

あまりにも愛しくて









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