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□相合傘の魔法
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今日は日直だったから、いつもよりも少しだけ帰りが遅くて。
それでいて、私の本日限定のパートナーの帰りはいつもよりも少しだけ早いらしい。
教室の掃除が終わったところで私は彼に声をかけた。
「切原くん。あとは私がやっておくよ。」
「お、マジで!」
そう言うや否やキラキラと瞳を輝かせた彼は箒を片付けて、そそくさと教室を出て行った。
彼は最近新しいゲームを買ったと言っていたから、雨で部活が休みになったらしい今日くらい早く帰りたかったのだろう。
それでも。
「少しくらい、私との時間を惜しんでくれたっていいじゃないか。」
雨のせいで電気をつけていてもほの暗い教室を、今は私1人が独占していて。
妙な寂しさをこの胸の内に抱える前に立ち去ってしまおうと、手にしていた黒板消しを些か雑に滑らせた。
あとは、日直当番の名前を明日の当番に書き換えるだけ、と言うところで私の手は止まる。
もう、これで最後だろう。彼との日直も。
とはいえ、これが初めてだったのだけれど。
席替えをしてしまえば、彼と隣になれるとも限らない。
(最後に、最後だから。)
私は胸の内で、誰に言い訳するでもなく繰り返して、名字と切原の名前が並ぶ場所に素早く相合傘を書き足した。
明日、誰よりも早く登校しよう。
この秘密の相合傘を見られないように。
何故だか今すぐに消してしまうのは勿体無い気がして、消せなかった。
それは、多分今日が雨だったからだろう。
そう勝手に結論づけて、誰もいない教室の明かりを消した。
そのまま、一瞬躊躇し、私も教室を後にした。
(明日、相合傘が残っていたら、告白しよう。)
「あなたが好き、です。」
相合傘の魔法
誰もいないと思っていた下駄箱には、切原くんの姿があった。
あぁ、あながち相合傘の魔法は嘘じゃないかもしれない、なんて。
私は立ち往生していた切原くんに、苦笑いで私の傘を差し出した。