V

□Four
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結局、朝練を見に行く約束の日は雨だった。

本当についていないと足元の石を転がしながら歩く。
時折、傘から垂れる雫がポタリポタリと目の前を濡らしていく。

折角、キラキラした人たちを見れると思ったのに。

そういうときほど、学校に着いたところで雨がやんだりするもので、ぷうと頬を膨らまして廊下を進む。

時折“アリス、今日はご機嫌斜めだね”と声がする。

私は、そんなに有名なのだろうか。

ただの・・・ただのアリスだと言うのに。

「あぁ!!めんどくさい!!!」

教室の椅子に座って足を投げ出すと頭上から声がした。

「・・・アリスって、アンタ?」

クイっと上を向くと、ふわふわした黒髪の少年がいた。

・・・ふわふわ、ふわふわ・・・

触りたい!!!

今までの不機嫌はどこへやら。
私の興味はまっすぐと彼へ向く。

「・・・誰?」

指をさして首をかしげると、彼は少し目を見開いて、笑った。

その笑みはまるでチェシャ猫のようで、あぁ彼はいたずら好きなのかな、と一人で納得。

「俺は切原赤也!立海の2年エースとは俺のことだぜ!」

2年エース・・・?

何のことだかと首を傾げてるとチェシャ猫さんはほんとに何も知らねーの?と問う。
ソレが何をさしているの分からなくて、ただコクンと頷いた。

「俺、テニス部。」

「・・・だから?」

どう返してほしいのか、そもそも文章として成り立っていない気がする。

「ぷっ!ははははは!!!」

チェシャ猫さんが急に笑い出すものだからカチンときて彼の頭へと手を伸ばす。
そしてそのまま・・・

「わっ!お前何すんだ!!」

ワシャワシャとかき混ぜる。
ふわふわの髪はやっぱりふわふわで、もう怒ってないのに彼の髪をいじる手は止まらない。

「ちょ!悪かったって!」

チェシャ猫さんがちょっと辛そうだったから後ろ髪引かれる思いで手を収めた。

・・・もっと触りたかったな

「なぁ、アンタ名前は?」

問われてる意味が分からない。
さっき自分で“アリスって、アンタ?”と聞いておいて。

「アリス=リデル。」

私は首をかしげて答える。
するとチェシャ猫さんはそうじゃなくて、本名!と返してくれるものだから、何故か泣きたくなった。

嬉しかったんだ。
初めて本名を聞いてくれた。
アリスではない私の存在を見てくれた。

「夢羽!私は早咲夢羽だよ!」

私は久しぶりに自分の名前を紡いだ。
誰も、呼んではくれない私の名前。

思わず俯いて、どうせ名前を聞いても呼んでくれないくせに、と口を尖らせた。

「あ、早咲。」

だから、チェシャ猫さんの声に勢いよく顔を上げてしまって、

「いったぁい!!!」

「いや、俺もいてぇよ!!」

チェシャ猫さんの顎に頭をぶつけてしまったのだ。
お互い半泣きのまま見つめあう。

と、同時に噴き出した。

なんだか、楽しくて、
チェシャ猫さんが何か言いかけていたのすら気づかなくて、そのままチャイムが鳴ったものだからチェシャ猫さんは自分の教室へと走っていった。









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