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□観覧車
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恋は、諦めなければと思うほど強くなっていくものだと、私は思う。

手を伸ばして、ひたすら自分を見てほしいとアピールして、

それから、それから。

だけど、結局は叶わないことを知っているのだ。

「なまえ?」

あぁ、私はどうしよう。

柳くんの端正な顔に覗き込まれたら、諦められないじゃないか。

この観覧車が一周するまでに、諦めよう。
そう、昨日のうちに心に決めていたはずなのに。

夕日は凄く綺麗で。
その夕日でほんのり色づいた柳くんはもっと綺麗で。

これじゃ、私なんか手を伸ばすことすら出来ないじゃないか。

「柳くん。・・・私、」

その続きが柳くんには伝わったのだろう。少し、本当に少しだけ、彼の眉間にシワがよった。

諦めないと。
だって、柳くんはテニスに集中できないから色恋などには手を出さない。
諦めないと。
私がつらくなるだけなのに。
諦めないと。諦めないと。

瞳から、溢れる涙に柳くんは動揺してくれるだろうか。

柳くんの綺麗な指が私の頬に触れる。

「泣くな。」

だって、だって。
苦しいもの。

「俺は、好んで遊園地などは来ない。」

知ってる。
わざと誘ったの。

「だが、お前の誘いは断りたくなかったのだ。」

すっと、彼の手が頬から首の後ろへ回される。

“なまえが好きだ”

そっと抱き寄せてくれた温もりは、
窓から見える夕日より
ずっと暖かく
切なかった―――





観覧車

観覧車が下につくまで
この甘い時を堪能していよう

ほんのり香る
彼の香りと一緒に










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