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□鬼ごっこをしようか
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昔、そう俺が幼かった頃の話だ。
鬼ごっこは、とても嫌いだった。
あの、近づくたびに逃げられる感じが。
恋はそれと似ている。
近寄ると、離れて
離れると、立ち止まって。
無性に、切なくなるところも。
だから俺は、“恋”という気持ちに蓋をした。
怖くてたまらなかったから。
逃げたのだ、要するに。
だけど、君は―――なまえは言うんだ。
恋は、楽しいと。
その言葉に、腹がたった。
理由は分からないけれど。
違う、なまえのその言葉だけじゃない。
他の男に向ける笑顔も
言葉も
全部、全部気に入らない。
“なまえ”と呼ぶのは俺だけで良い。俺だけのなまえでいい。
不意に、そう無意識に、廊下の先に見つけた背中を追いかけた。
後ろからそっと手を伸ばすと、
意外と簡単に捕まえられた。
「捕まえた。俺の恋。」
鬼ごっこをしようか
さぁ、恋の鬼ごっこを始めようか
手加減はしないよ
きっと君を捕まえる