【短編】
□恋愛電波送信中
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「豪炎寺!やったな!!」
そう言ってくれるお前。でも、本当は言葉よりも求めているものがあるんだ
恋愛電波送信中
わいわいがやがやと狭い部室に明るい声が満ちあふれている。それもそのはず、今日は他校との練習試合で圧勝した後だったのだ。
勝利の熱気と運動後の熱気が部室中を満たし、そのごったがいの中で着替えをしていると急に背後から声がかかる。
「豪炎寺。今日はハットトリックだったな。おめでとう。」
そう声をかけてくるのは他の面子から解放されたばかりの司令塔、鬼道有人だった。
「あぁ。ありがとう。」
嬉しい反面がっかりする自分がいる。何故かはわからなかった。
鬼道とは親友だ。しかも俺たちは互いに円堂と言う存在が絶対不可欠でその円堂とも俺たちは親友だった。
俺たち三人は似ている。性格がとか顔がとか思考がとかそう言った面じゃないが…あえて言うなら三人とも突出していると言う点だろうか。部活からも学校からもどこか浮いていて…だからすぐにわかった俺たちが「似た者同士」だということに。
そんな三人の関係に最近自分は円堂と鬼道、二人に対して好きという感情が異なっていることに気が付いた。
今だってそうだ。鬼道に誉められて嬉しかった。それは他の部員に比べたら別格で…少しこそばゆい。でも同時にがっかりしているんだ……何で…それを言ってくれるのが円堂じゃないんだって思っている自分がいるんだろう。
「お、みんな盛り上がってるな!」
そう言いながら部室に入ってきたのは…
「あ!キャプテン」
「円堂!遅かったな!」
みんなの歓声に固まる。今、正に思い描いていた人物の登場になぜか後ろめたい気持ちになる。それと同時に
「悪いな。監督とマネージャーと明日の練習予定と今度の練習試合の予定の打ち合せをしてたら遅くなったんだ」
そんなことを言いながら寄ってくる者を拒むことなく体を触らせたりがしがしと頭を撫でたりして歓喜に過剰なスキンシップに勤しんでいる。それが嫌で仕方なかった。
自分でも気付いている。俺はみんなと違ってヒトに甘えるのは上手じゃない。母さんが死んで妹を父親を悲しませたくなくて必死だった。必死に立ち続けているうちに………甘え方がわからなくなっていた。
俺だって…
髪を掻き混ぜるように撫でる手
いつだって安心感のある胸板
明るく力強い音声で励まし誉めてくれる声
欲しいんだ
でも、どうしたらいいかなんてわからなくて…人知れず唇を噛む
「円堂、今日はナイスセーブだったな。一点もやらないなんてさすがだ。」
そう言いながら鬼道はぽんっとその肩に触れた
それが悔しかった
鬼道とは円堂より自分に近い感じがある。それはお互い妹を持つ兄であり、同時に強い悩みを持つ者同士で…鬼道を雷門に誘ったのもその所為だった。
それなのに鬼道はいとも簡単に円堂に触れられる。そして…
「それを言うならナイスゲームメイクだったぜ?最後のスルーパスはタイミングバッチリの鳥肌ものだったぞ?」
そういいながらがしっと抱き締めてもらっていた
明らかに他の奴らとは違うその態度に胃が痛くなりそうでさっさと着替えると部室を出た
部室を出ると一気に熱気はなくなり辺りには爽やかな風が吹いている。これならすぐに頭も冷えそうだ。
大きく息を吸い込み深呼吸する。それと同時に心に詰まったこのもやもやした気持ちも一緒に吐き出してしまいたかった。
「豪炎寺!」
背後から急に声をかけられびくりと肩が震えそうになる。声に振り返ると…
「よかった。帰っちゃったかと思ったぜ?」
びっくりしたと言いながら先程から一切変わらないユニホームにまたもやもやが戻ってきそうで…嫌だった
「部室のなかは混雑しているからな。着替えたら外にいるのが得策だと思ったんだ」
一人で帰る気はさらさらない。少しでも近くに居たいんだ。でも、これ以上あんな中には居られなくて…あのまま居たら誰かに八つ当りをしてしまいそうで怖かった。
そんな俺の回答に満足した様子の円堂はいつもの笑顔で俺に話しかけてくる
「そっか。よかった。んじゃあ豪炎寺、俺が着替え終わるまで待っててくれないか?」
用事あるならあきらめるけどと続いている言葉なんてちゃんと聞こえていなかった。ただ、円堂から自分を誘ってくれたことが無性に嬉しくて…そのままYESと言葉を返していた
「響監督!ご馳走様でした!」
そう言って店を出る。辺りはすでに夕闇が迫ってきていた
「うまかったな。さすが響監督!」
円堂は終始上機嫌だ。それに比べて自分は下降線をたどっているのが嫌でもわかる。
こんな感情恥ずかしすぎる
「そうだな。でも本当に代金を払わなくてよかったんだろうか…」
そう。俺は円堂と二人きりになれなかったことに落胆している。そして…
「いいって監督が言ってくれたから二人を連れてきたんだ。気にすんなよ。それより、みんなには内緒な?」
しーっと口に人差し指を立てて黙っといてねとポーズをとりながら俺達を見やる。そんなときでもちゃんと円堂は公平にしてくれるのに………
自分の心が欲深過ぎて捨てたくなる
なんとか笑顔を作りうなずくと鬼道が利用する駅前に着く。少なからず鬼道が俺の変な態度に気を悪くしてないか不安に思いながら見やると全然気付いていない様子だった。鬼道は円堂を見ていた…
「円堂。また明日な」
「おう!気を付けて帰れよ?」
そういうと鬼道は笑った。そして思いがけず鬼道は俺の背中をバシッと一回叩くとちらりと視線をよこし
「…仕方ないから今日は先に帰ってやる。いつまでもそれだと俺としても気が滅入るからな…」
円堂には聞こえないほどの微妙な音声で告げると改札口近くまで行っている円堂の傍に行き軽くタッチし改札のなかへ入っていった
どうやら鬼道にはお見通しのようだった
「じゃ。行こうか」
円堂に言われて「あぁ」と軽く返事をして隣に並ぶ。二人で帰るのは久しぶりのことだった
辺りはすっかり暗くなり街頭の明かりがやけに明るく見える気がした。今日は普通の者であれば休日で…いつも通るはずの道も車通りは少なかった。円堂は無言で半歩前を歩いている。その足取りは何だか急いでいるようで…いつもとは違う歩調に少し不安を感じていると急に手を引かれ普段通ることのない路地に入り込む。
「えっ…円っ!……〜〜〜〜っ!!!」
気付いたら入り込んだ闇の深い路地裏で抱き締められていて…………脳内がぐらりとゆれた
「…本当に豪炎寺は甘えるのへたくそだな」
くぐもった声が耳元から聞こえ身体にぞくんと震えが走る。抱き締めたまま円堂はぐりぐりと頭を撫で回してくる。
あ、そう言えば宍戸にもこんなふうにしてて…羨ましいって思った
「今日もすげぇ大活躍だったな豪炎寺!あんなシュートバンバン決めて一人でハットトリックなんてお前しかできねぇよ!!」
そういえばこんな言葉も鬼道にかけてて…
にっといつもより近い位置で笑いかけられると……声なんて出なくて。それなのに胸元がぎゅっと締まる感覚に心が震えただ見つめることしか出来ない
ありがとうだけでも…言わないといけないのに…どうしてピッチ以外の場所では思い通りにいかないのだろう。悔しくて仕方ない。
「豪炎寺」
そんな俺の名前を呼ばれて目の前の人物の顔にはっとする
「そんな顔するなよ」
その表情は今まで一度も見たことない表情で不覚にも心臓がまた一つ大きく高鳴る
…あ…もしかして…自分のこの醜い感情は……
心配そうでそれでいて見知らぬ色を含んだ瞳に射ぬかれると身体は微動だにせず
「お前が言えないならちゃんと汲み取るから…そんな顔するなよ」
言葉と共に脳内で浮かんだ言葉が…映像になり今自分の瞳に映りながら唇に甘い感覚と鼻腔にふわりと香る体臭がリビドーを刺激し体中は動物的感覚で満たされしばらくの間ビリビリと痺れ続けていた
END