【短編】

□常夏
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青い空。青い海。そして太陽の君


常夏


今日も今日とてじわじわと全身を蒸すような南国独特の暑さが辺りを満たしている。じりじりと照りつける太陽の下、俺はありえない現実に浮かされていた。


「不動ー!」


俺の名前を呼びながら元気に腕を振ってくるのは間違いなくあのみんなに好かれるアイツで…口元が緩むのがわかる………ヤバイ。ヤバイだろ?顔が熱くなる感覚をやり過ごそうと声に対して軽く手を振ると満足したような笑顔が遠く青い海の波間から見える。軽やかな音を立てて白い砂浜との境界に置いた足がマリンブルーの色に濡れる。


何でこんなことになったのか…それはあり得ない偶然からだった



「すみませんでした!」

部屋のドアからそんな声が漏れてくる。俺はそれこそ興味本位でその部屋をこっそり覗くと中には赤い縁取りの眼鏡が印象的なマネージャーと我がイナズマジャパンを率いるキャプテンが対峙しており、あろうことかあのしっかり者のマネージャーがキャプテンに対して頭を下げていた。


「そうか。まぁ仕方ないことだからそんなに謝る必要ないぞ?」


いつも試合や練習中に投げ掛けるような笑顔と共にうなだれた肩にぽんっと手を置く。少し涙目になって幾分が白くなった頬はたったそれだけの動作で少し回復した様子だった。


「それよりも問題なのは、チケットが無くなった二人分の対応だよな…」


チケット…

普段話のなかへ自ら入らない自分にもこの言葉には少々思い当たることがあった。



「え?リゾートプールまで有るの?」


そう言って食堂で騒いでいたのは一年どもだった。そこへこのチームのFWの一人で赤い髪の紳士面が近づいていく。どうやらアイツは年下の扱いに慣れていてよく一年の面倒を見ている節があるためそれに目がいったのは偶々だった。


「へぇ。凄いねこれは、スライダーからコースターみたいなものまで有るんだ。」


人だかりの中には雑誌でもある様子でみんな不必要なくらいキラキラした目をしてそれに釘づけになっている。そこへさらに人が増える。


「何だ?楽しそうだな」


その声に人だかりからキャプテンと言う驚きと歓迎の入り交じった声がかかる。その両脇にはこのチームに入ってからは当たり前のようにべったりと一緒に居る二人組がまぜっ返す。


「みんな集まって何を見ているんだ?」


狭い視野のゴーグルでみんなの視線の先を探るとすぐに保護者のような男が言葉を返す


「あぁ鬼道君。今、このライオコット島のパンフレットを見ていたらリゾートプールを見つけて楽しそうだねって話していたところなんだよ」


「リゾートプール?」


不思議そうな顔をしたのはこの中じゃ一番鈍そうなキャプテンでそれに対しては鬼道君とは逆側を占領している男が答える


「いろんなアトラクションが着いたプールのことじゃないか?スライダーとか流水プールとかついている…」


「そうなんですよ!豪炎寺さん!」


このチームの中で最年少の男が豪炎寺の話を遮りそのリゾートプールの良さを話している。その話の内容は聞いているだけにもかかわらずかなり楽しそうな場所だと俺ですら思った。小学生のアイツが興奮するのは当たり前だろう。水分補給もかねて椅子に座っていた俺はうるさくなってきたその場から立ち去ろうとするといつものチームに響く声が辺りを更に明るくする。


「楽しそうだな…みんな練習もすげぇ頑張ってるし…監督に聞いてみるな?」



その数日後チームミーティングの時にその話が決行になったことを知ったのだった。無論学生らしく全員参加だと告げられれば俺には拒否権なんてなかった。

日数だってそう無いし。たぶん二人が話しているのはそのことのはずだった。



「とりあえず、一人は俺で良いぜ?音無や他のマネージャーには是非行ってもらいたいんだ。何かあったらすぐに対処できるだろうし…いつも頑張ってもらってるお礼も込めてさ。」


「円堂さん…」


アイツらしい言葉に軽くため息が漏れた。でも、アイツが居ないなら俺も全く行く気なんて無い。大体誰も気付いてないようだが俺はアイツのことが好きなのだ…それも下心もしっかり持った状態で…だ。そうじゃなければいくら楽しそうでも人込みの中に交じるのは正直ごめんだった。だから決めるのは簡単だった。


「俺が抜けてやるよ」


驚きの表情が二つこっちを向いたのは同時だった。




で、現在に至るわけだ。


「なぁ、不動は海に入らないのか?」


ぽたぽたと濡れた髪から雫が落ちるのもかまわずそんなことを言ってくる相手に釘づけになる。集合時間までフリーになった俺たちは無料で解放されている近場のビーチに繰り出してきていた。すべてはプールに入れなかった気持ちを考慮してってことらしかったがはっきり言って俺にとっては頭が浮かれるのには十分すぎる内容で理性を保つのに忙しかった。


「海で日焼けすると痛いからな」


お昼代としてやや多めに支給された小遣いで買ったホットドッグを片手に適当に返した。あー…何でヤバい食いもんしか売ってねぇんだよ!ここは!これ以上意識したくないのに下心を伴った本能は俺と同じホットドッグを頬張る口元をガン見していた。それでも鈍感すぎるキャプテン様は気付かない様子で少しの沈黙の後にとんでもない事を言ってくれた。


「日焼けが嫌ならさ、俺が日焼け止め塗ってやるよ」


満面の笑みが眼前に広がっていて…くらくらと熱射病みたいな目眩を感じた
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