【短編】

□LoveSpice
1ページ/1ページ

「なにいってんだよ…それって…」


眉間に皺が寄るのがわかる。だってまさかそんなことになっていたなんて…何にも知らなくて…何でここに来てそんなふうに謝られるなんて………ふつふつと怒りがこみあげてきてそれと同時にぎゅっと胸が締め付けられて痛かった


LoveSpice


その日間違いなく俺は浮かれてた。

俺と円堂は付き合ってる。年齢差は10もあって端からみたら間違いなく犯罪なんだろうがんなこと知ったことか。俺は間違いなく円堂のことが好きだったし…それは円堂も同じで…相思相愛なんだから誰にも文句は言わせたくなかった。

そんな俺の最近の楽しみは休みの度に円堂とデートしてイチャイチャすることだった。今までダチとも遊びに行ったことなんて無かったのに急にデートなんてマジでレベル高過ぎるんだ…毎回楽しすぎて仕方ない所謂リア充ってやつなんだって最近知った。

付き合いだして今日は初めて昼間のデートはダメだってキャンセルされたのはちょうど二日前のことだった。それでも会いたいからもちろん夕飯は一緒に食べても良いか?って言ってきたのは円堂で…それだけで俺の気持ちは空を飛びっぱなしだった。
外食を勧める円堂を押し切って家で食べる約束をこぎつけ、円堂のマンションの合鍵をもらい浮かれた気持ちでドアを回したのは数時間前だ。



目の前の状況に視界がすでに揺れてしまっている。だってそうだろ?


円堂は言っていたとおり時間より早めに家に帰ってきた。俺は料理も大分出来上がったところでいつもはしないエプロンを新婚気分で付けていて……あわよくばそのままHしても良いなって……………浮かれまくってたんだ。そんな俺に円堂は膝を付くと急に真顔で謝ってきて…………意味が分からなかった。用事なら怒ったりしねぇのに…でも次に続いた理由に頭が真っ白になる


「今日は鬼道とした約束の埋め合わせでスポーツ用品店に行ってきたんだ。言いだせなくてごめん…」


で冒頭へ戻るわけだ。

俺は悔しくて腹が立って悲しくて…………あぁ!こんな最悪な感情初めてなんだよ!!畜生!!着ていたエプロンを脱ぐとその顔目がけて投げ付ける。もちろんそんなことで納まるはずもなくむしゃくしゃしたまま靴を引っ掛けるとそのまま飛び出していた。


何で…何で鬼道くんに邪魔されなきゃなんねぇんだよ!!そんでどーしてその約束を飲んじまって…挙げ句の果てに事後報告ってんなのありかよ!!


必死になって慣れない場所を走りまくる。地図なんて持ってないしそのまま飛び出したから冷えてきた夜風は身体に堪える。気付けば視界は歪みまくり頬を冷たくなった水分が通り過ぎていた。



はぁはぁと息を切らすくらい走ると団地だった場所から一気に視界が開ける。そこは街頭がいくつもたった公園だった。

知らぬ土地勘でどんな公園かは分からないがかなり広い公園だということは分かる。いくつも灯る街頭の数倍そこには木が生い茂っていてさわさわと風が吹くたびに音がなる。俺は誰がいるか分からないそこに入る前に伝っていた涙を拭いふらふらと引き寄せられるようにその公園へ足を進めていた




鬼道君との出会いはちょうど一年前だ。俺は元々真帝国学園に通っている一生徒だった。両親はすでに離婚し東京で働き仕送りしてくる母のその実家で生活していてサッカーの上手い常に優勝している帝国学園の姉妹校が預け先の近くにできたために俺は一にも二にも迷うことなくそこに入った。
俺にとってサッカーは全てと言って過言ではないものだった。両親が離婚する前からずっとサッカーだけが俺の拠り所で…それしかなかった。でも所詮ガキの俺にはサッカーがやりにくい環境だとか金がないだとか言う大人の事情は解消されることなく…増えるのは家庭内暴力に走りそうになる両親の上手い宥め方と変態借金取りから逃れるために行う性行為の仕方ばかりだった。そんな中影山総帥に見初められ帝国学園へ転入できたのは人生の転機と呼んで良いほど俺の中では嬉しいものだった。一度来たチャンスは絶対に逃す訳にはいかなかった俺は…影山に望まれるままに身体を売った。そんなとき一番はじめにお目通しさせられた生徒が鬼道君だった。鬼道君は幼くして両親を亡くしてはいるが財閥の跡取りとして養子縁組していてルックスから勉強、サッカーに至まで完璧だった。そんな鬼道君が影山のお手つきだと知ったのは出会ったその日のことだ…影山は俺に見せ付けるように鬼道君を抱いた。はっきり言ってゲスのするセックスほど目に余るものはねぇ…ちょっとねちっこくて神経質な質の影山はそれこそ鬼道君の弱いところは全部知っている様子できっと回数だってもう何十回とヤッてんのに違いないんだ。それなのに………鬼道君は処女のように清廉で………間違いなく俺はかなわねぇって思ったんだ…

サッカーや勉強とかなら追い抜かす自身がある。それは鬼道君の実力を知った今だって変わりはしない。でも…………人間一人一人の雰囲気や性質なんてのは変えることなんて出来やしないのだ。だからこそ鬼道君と円堂がデートしたことは許せなくて…………………………何より怖かった


広い公園内をぶらぶら歩きある街頭の下で歩みを止めて設置してあるベンチに腰掛ける。外は冷えていて自分で自分の腕を抱く。少しでもあったかくなりたいのに冷たくなってしまった心ではそれも叶わず顔を埋める。大体円堂は鬼道君とスポーツ用品店で何をしてきたというんだろうか…何も聞かずに出てきたために全く想像もつかない…………ただふと思ったのは何でそんな場所でデートしたんだろうかと言うことで……だって円堂はいつだって俺とのデートは楽しい場所へ連れていってくれる。それは遊園地だったり科学館だったりバーベキューだったりさまざまだけど…どれも楽しい施設ばかりで部活とはかけ離れていることが多かった。でもそれが俺は愛されてるって思うことでもあって…いつも休日の度にどこへ行くか慣れないパソコンを使って調べて計画をたてているのだ………そこで仮説なんだがたぶんスポーツ用品店デートが本当であれば…円堂はあまり行く気じゃ無かったんだと思う。そうじゃなきゃ鬼道君と会った後に俺と晩飯食おうなんて思わないはずだし…………膝をついて俺に謝ったのだ…大人がそんなことするなんて…あんまりと言うか初めて見たのだ


「デートしたのは本当だしアイツを抱いてないって証拠はどこにもねぇ」


口に出して今自分がやっていることについて公定しようとすると自分の後ろの茂みが鳴る。


「っ!」


突然の雑音に驚くも普段から油断できない状況にある自分は思ったよりも早く間一髪でベンチから立ち上がり距離を取りながら相手を見やる。そこには少し年を取った痩せた男がギラギラとした欲望に濡れた目をして立っていた


…コイツ…なんだかヤバそうだな…


こんな時間の公園で…良くも悪くもここは緑が深い。じりじりとした相手の視線を感じながらどうやって逃げ切ろうか策を練るが…知らない土地とただ勢いで入ってしまった広い公園に退路が分からずゆっくりと距離を取るので精一杯だった。ドキドキと心臓が変な脈動を伝えてきて…身体はすっかり冷えきっていて……軽い絶望感を覚える。せめてサッカーボールさえあれば状況は自分が圧倒的有利にたてるというのに…ぎりりと奥歯が鳴る。その瞬間だった


「…!!」


黙ってじりじりと距離を詰めていた男が急にこっちに向かって走ってきた。そこで初めて近くの街頭に照らされ相手は下半身がむき出しにされていることが分かり背を向けると自分が出来るかぎりの早さで必死に走る。相手は間違いなく変質者で…捕まったら最後嫌な予感しかしなかった

円堂に悪態をつくことなんてすっかり忘れてただがむしゃらに走る。道なんてわからないし方角だって出口に向かってるかどうかなんて分かりゃしない。このでかさの公園じゃ大声だしたところで誰も助けに来てくれないかもしれない。

何で…何で俺ばっかこんな目に会うんだよ!よりにもよって今日変態に追っ掛けられなくたって良いだろうに!

全力で走っているのに距離はなかなか開かない。それに気を取られ足場の悪い公園内の敷地に出ていた木の根につまづく……あ…やばい…思う間に転んで世界が反転する…………もう目の前に迫った変質者に掘られるくらいは覚悟しようとあきらめかけたその時だった


「ゴッドハンド!!」


耳に馴染んだ声と爆音に目を見開くと今し方自分にのしかかろうとした男が右側にすごい勢いでふっとんでいた。あんぐりと口を開けたのも束の間声の主は吹き飛んで態勢を崩した男にのしかかると体育教師らしく柔術でその腕を締め上げながら俺に携帯を投げ付けてくる


「明王。110番!」


その言葉に俺は反論するのも質問するのも忘れて電話をかけていた。





「明王が………無事で良かった」

警察の軽い事情聴取が終わり二人っきりになったところで黙ったままだった相手の声がかけられ顔を上げる。さっきまで俺は間違いなくコイツのことを怒っていて……鬼道君との仲を疑ってたのに…その言葉は意外とすんなりと胸にしみ込んでくる。それでも素直な事は言えなくて


「……全部おまえのせいだろ?」


憎まれ口をたたいてそっぽを向く事しか出来ない。………最悪だ…素直になれたら上手に修復されたかも知れないのに…………でも…円堂との関係は妥協することなんて出来なくて…そんな自分に唇を噛むとぐいっと腕を引かれ視線が合う。こんなふうな視線が合うということは間違いなく円堂は屈んでいてその真摯な目は俺をきれいに写していて…


「ごめん。明王。傷つけて…苦しい思いさせた挙げ句に怖い思いまでさせて……本当にごめん……俺が悪かったんだ」


そう言って眉を寄せるその顔に不覚ながら見入ってる自分が居て…やっと…ぽろりと本音がこぼれる


「…円堂は…鬼道君がタイプなのかよ…デートして…Hまでしてきたんじゃないだろうな」


そんな俺の声に驚いたらしい円堂の目は真ん丸になってから俺の大好きな弓なりに弧を描き


「俺のタイプは明王で…そんな明王がいるのに何で鬼道とHする必要があるんだ?…俺は明王以外とHする気は全く無いぞ?」


その言葉に心のどこかが安心したように腰を据えるのを感じると同時に胸に何かがこみあげて気付くと目に写っていた円堂が見えなくて…


「……悪いと思うんならもう二度とっ…こんなこと…すんな……っ…どうしてもってんなら…言ってからにしろ…よな?」


涙声でとぎれとぎれにそう言うとぎゅっときつく抱き締められて息が詰まると同時に嬉しくて自分もしっかりと抱き締め返す


「わかった。ごめん。本当にごめん。もう絶対しないから…俺の傍にいてくれ」


そんな甘い言葉を言われたら涙腺なんて壊れるしかなくてぎゅっとしがみついて泣きながら


「帰ったらっ…っ…飯食って………さっきの怖いの……っ…忘れるくらい…いっぱいHしろっよな」


嗚咽混じりにそう言えば耳元で大好きなテナーが了解だと告げてくれて誰も通らないことを良いことに唇には甘い熱が触れていた



END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ