【短編】

□恋愛成就のその先は
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会えない間一体お前はどんな気持ちでサッカーしていた?
楽しかったか?悔しかったか?嬉しかったか?悲しかったか?
俺は…………………


恋愛成就のその先は



俺がやっとイナズマキャラバンに合流したとき、お前は間違いなく成長していて…それでいていつも楽しそうにするサッカースタイルは一切変わっていないお前らしさに俺は間違いなく胸を打たれた。


「豪炎寺」


当たり前のごとく呼ばれた名前は試合後の今になってもまだ脳裏にこびり付いている。何故かって?理由はすでに分かり切っている。


「豪炎寺」


俺は好きなのだ。この俺だけを呼ぶこの声が…俺だけに向けられるあの笑顔が…俺だけに向けられるあの信頼が…俺だけに向けられる…君が俺だけに向けてくるモノがすべて愛しくてたまらないのだ…そしてこの気持ちは世間一般からしたら『恋』と言うものにまで足を伸ばすほどの歪んだ劣情までも入り込んでいることに俺は気付いているんだ。

それもこれもすべてはあのイナズマキャラバンを降りた時に自分の心を見直した事で気付いた気持ちだった。俺は間違いなくあの時から変わった。お前とは一緒じゃないからあの頃からどれだけ変化したかは分からないが確実に大きな部分が変化した。それは間違えようもない真実で…

そんな俺は今、俺を変えてくれた根源のようなお前と向き合っている。…ただいま…待たせて悪かったな…元気そうで安心した…また一緒にサッカーできるな?…新しい仲間が増えているな…今までどんなことがあったんだ?…ここにいない仲間はどうしてる?聞きたいことは溢れてる。言いたいことも溢れてる。それなのに…どれも言葉にしたらしっくり来ない気がして…何一つ言葉にならない


「円堂…」


長い沈黙を破って口から溢れたのは君の名前ただ一つで…………それなのに……君はとても嬉しそうに笑ってくれて


「豪炎寺」


再び名前を呼ばれる。本当ならきっといっぱい話したいことがあっていっぱい聞きたいことがあって仕方ないのは君も同じなはずなのに何も聞いたり言ったりすることなく俺の顔をじっと見つめて脳裏に残った声とは違うそれで名前を呼んでくれる。別に何が違うかなんて俺にも説明することはできない。それでも、今呼ばれた名前とあの時よばれた名前は全く違うことがわかっていて。

だから、誤って誤解してしまいそうになる。

まるで今の声色は


「…豪炎寺?」


俺を見つめるその瞳が


「何だ?」


すべて


「…あのさ」


短い沈黙のなかに人知れず甘い緊張感が増していく

いや、そんなはずはない。心の中で勝手に出そうになる結論を振り払いながら相手に対峙するが一度感じた甘い緊張感は消えることなく身体は勝手に暴走するようにドクドクと心臓ばかりが早く脈動を刻みはじめる
なかなか続きが出てこない円堂に続きを促そうと声をかけようとするが

……っ…だ、めだ

今話し掛けた瞬間に何かとてつもないことが起こってしまいそうで声を出すことなんか出来ない。出せない声の代わりにちらりと相手に視線を合わすと

…な、んで…そんな目で…俺を見るんっだ?

ほのかに染まった頬とくりっと大きめの目がいつもよりも潤んでいて…その瞳はじっと俺だけに向けられ瞳の中には俺だけしか映っていない。その事実は再び俺の妄想のような結論を引き出そうとし再び心の中でかぶりを振る

違う!違うんだ!そんなはずある訳ない…円堂はいつだってこういう風でいつだって真摯な瞳で俺と対峙してきたじゃないか

どんなときだって諦めず、どんなときだって真っすぐに、どんなときだって努めて明るく、決して逃げることなく………この瞳には決して俺と同じような劣情など持ち合わせてはいないのだ

お前は…まるで神のようなすべてを超越している存在で

だからそんなことあるはずない

あるはず…



「好きだ」



大気を揺らして響いた声は俺の鼓膜を間違いなく揺らすけどその声はなぜか右から左に抜けていき意味が分からない

え?…円堂…今、なん、て

分からない。判らない。解らない。ワカラナイ。はずなのに何故俺の心臓はこんなにも激しく鼓動するのだろうか

ドクドクドクドク…

けたたましい地響きのような自分の心臓の音が響いている。何故、どうして、こうなったのかなんてワカラナイ。判らないはずなのに…何故か俺はこの自分がイナズマキャラバンから離脱していた間に君を変えた結果だと解っていて。


「なぁ。豪炎寺…俺のこの気持ちの意味…解るか?」


そう聞いてくる円堂に俺の胸はきゅうっときつく締め付けられる。がんじがらめなんだ…離れていて、何も分からないところで誰にも分からないように暮らしていたのに俺の気持ちは少しも離れることなくむしろ、日々強くなる拘束にがんじからめに捕われて…そんな自分と同じようにがんじからめにとらえてしまいたくて仕方ない。


「俺、お前が居なくなって気付いたことがいっぱいあって…でも、一番気付いて驚いたのは……」


ざぁっと夜風が二人の間を擦り抜ける。温くやさしいその風はまるで二人の間を埋めるようにあって…ゆっくりと脳みそが軌道しはじめる。

俺は円堂のことが好きだ。これは間違いもない事実で最近になってこの感情はただの友愛だけじゃなく劣情を含んだ恋愛に変わってきている事を実感している。
そして円堂は


「俺、お前の事が好きで…恋してるって事だったんだ」


もしかしなくても

上気した頬には赤みがさしているそのくせ言っている内容に俺がどんな反応を返すのか分からない状況に顔の筋肉が引きつり硬直している。それでいて、瞳はきらきらと星を詰め込んだように輝き、不安によりいつもよりいくぶん潤んだそれは恐怖心を瞳の奥底に宿しながらも燃えるような激しい決意の色が全面を支配している。そのすべてが俺に向けている感情の発露だと分かるだけで、信じがたいほどの恍惚とした優越感に似た快感が全身を痺れるように通り抜け、動き始めた脳みそに克明に伝えてくる。

緊張と興奮でじっとりと背中には汗をかいているのにやけに乾いた口のなかはからからでごくりと唾を飲み下す。


「俺も…俺も同じ気分だぜ?円堂。」


ドクドクと口から飛び出しそうな心臓の鼓動を喉元から感じながらなんとか言葉で感情を吐き出す。ずっとずっと伝えたかった感情なのにどうして実際に伝えるとこうも息苦しくて、心臓を締め付けてくれるのだろう。同じ気持ちを伝えてくれたはずの円堂を見る。今まで見えていた円堂の顔を俺はいつのまに見るのをやめていたのだろう。…あっ…そうか、見るのが恥ずかしくなってそらしたのは自分だった…こんなたった数事なのに言うのは苦しくて。見つめ続けるのも苦痛で…それなのにお前は本当にすごいヤツだよ。

でもそんなすごいヤツでも俺は…


「円堂。俺はお前を好きだ。愛している」


お前を守ってやりたいって思っている。お前の力になりたい。嬉しさや苦しさも一緒に分かち合って…この先もずっとずっと一緒に寄り添っていけたらって…そう………


「豪、炎寺っ!」


俺の名前を呼ぶのと同時にぽろりと綺麗な透明の雫が零れ落ちる。今までどれだけ一緒に居ても決して見ることの出来なかったそれは初めて見るのに何だかとても綺麗で…円堂に良く似合っている。

あ、そうか…この涙は…俺たちが繋がった証なんだ

ずっとずっと夢見ていた。君の心に触れたいと。触れた君を自分だけが守ってやれるそんな特別な存在になりたいと……でも、男だからとか、強い君には必要ないからとか、ひょっとしたら君に嫌われるからとか思っていて…ずっと言わないで後生口をつぐもうと思っていた………だけど…

溢れた涙はとどまることを知らないのかぽろぽろといくつもいくつも零れ落ちる。綺麗なそれが零れるのはとても円堂に似合っているけど同時にすごく勿体ない気がして…そっとその雫に唇を寄せる。ぽたりと唇に落ちたその雫は俺のそれに触れた瞬間に形を変えて…滲んだそれはしょっぱい味をもたらしてくれて君が生きてることを実感させてくれて…気付くときつく掻き抱いていた。


「好きだ…大好きだ…円堂!」


君は俺を求めていて、俺のことだけを考えてくれる時間があって、俺だけを見てくれていて…大好きなサッカーよりも俺との気持ちを優先してくれるから……俺と同じ気持ちでいるなら…気持ちを隠す必要はなくなるだろ?

二人の身体が密着した場所からじわじわと相手の体温が感じられてじわじわと胸が締め付けられる今、この瞬間にお前は俺のことだけ考えていて…そっと控えめに腕が背中に回される。あぁ…恋が成就するというのはこういうことなのか…

嬉しいけど切なくて…胸を鳴らすこの甘い疼きは消えることなく

俺は一人でサッカーをしていた時いつもこの気持ちを感じていたんだ…円堂


「もう…離さない」


そう言った瞬間にぎゅっと強く抱き締められる感覚を感じながら俺は初めて円堂のその唇に唇をそっと重ねた。




END

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