【短編】

□友愛と恋愛の境界線
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その相手とキスが出来るか出来ないかが同性愛と友情の違いだと誰かが言っていた言葉がたまたま耳に残っていた。だからかも知れない。気付けば言葉は口から滑り落ちていた。


友愛と恋愛の境界線


こんなことになってしまったのは……要は…些細な行き違いだったのだ。俺はこの学校に転校してきて凄く変わった。その変わった部分の殆どはこいつが関与していて、それは同時に俺にとって大事な存在という意味合いさえとれてしまうようなそんな親密すぎる間柄になっているということだ。その事実は俺に思った以上の劇的な変化をもたらしてくれていた。


「で?結局今日の喧嘩の原因はなんだというのだ?」


呆れた調子でそう聞いてくるのはこのチームの司令塔である鬼道で、俺はこいつをチームに…学校に転入するように誘ったことからか気付けば俺と鬼道は親友といっても過言でない関係になっていた。また俺が変わった原因である円堂とも親しい間柄のためか…こう…行き違いが起こった時にはついつい相談役になっていて…迷惑を掛けているのは百も承知だ。でも…現実は上手くいかない。


「……忘れてたんだ…一緒に練習するって約束をな。」


自分でも幼稚な理由だと思う。大体他の奴に同じ事をされたところでこんなふうに怒ったりはしないだろう。それなのに…


「……なるほど…それは円堂にも非があるわけか。だがお前の事だ。結局一緒に練習は出来たんだろ?」


そうなのだ。確かに出来た。出来たのだが………自分自身にため息が出る。つまり、それでは満足できないのだ。そこで黙りを決め込むと俺の代わりに鬼道が短くため息を吐く。


「……豪炎寺。俺からこんなことを言うのはなんだが………もう、いっそのこと円堂に告白してしまったらどうなんだ?…付き合うようになればこんなケンカを毎回毎回繰り返さずに済むだろうに」


鬼道の言葉に一瞬にして固まる。たぶん自分では分かっていなかったが俺は驚きすぎてひどく間抜けな顔をしていたんだろう。それを見ていた鬼道が顔を隠して肩で笑っている。その段階になってやっと事の次第が飲み込めてきた俺は一つ咳払いをして居住まいを正すと腕を組みまだ笑い続ける鬼道に厳しい視線を送りながら話を続ける。


「……おい、俺と円堂は男同士だぞ。何で告白だとか付き合うだとか言う話になるんだ?」


そういってやると固まるのは鬼道の番だった。笑っていたために隠した顔の変化は望めなかったものの間違い無くそれは驚きからくるものであって、少々居心地が悪い。それでも視線をそらさず見つめ続けていると腕組みをしながら片手で口元を隠し神妙な顔をした鬼道がぼそりと…


「なるほど……以外と抜けたとこがあるんだな。思ったよりも先は険しそうだ…」


そう言うとマントを翻して去っていってしまった。さすがに毎度毎度の事で申し訳ないとは思っているが……何故俺と円堂が………


「………男同士で付き合うなんて変だろう」


ぼそりと口から声が漏れた。





「え?同性愛なんて今頃珍しくないんじゃない?」


そう言ってきたのはマックスで…俺たちは偶々部活中のストレッチの相手として組んだときだった。何となく気になっていたことを聞いてみたところあっさりとそう返してきたのだ。それに驚くのはもちろん自分で


「そ……そうなのか?」


ストレッチをしながらマックスはさらりとそーそーと相づちを返してくる。元来身体が柔らかいのだろうマックスは俺が身体を押してやっても全くと言っていい程抵抗無く決められた時間身体を地面にくっつけている。そんなマックスがさらに続けてくる。


「大体さぁ好きって気持ちに変わりはないんだからさ。…後はそいつとキスできるかどうかでしょ?…」


友情と愛情は紙一重なんじゃないの?とあっけらかんと言いながらストレッチメニューをこなすマックスに付き合いながら今度はその言葉がぐるぐると脳裏を占領してしまったのだった。




「そう言えば今日は円堂…遅いな」


そう言いだしたのは半田だ。部活自体は鬼道も風丸も居るのでたいして問題なく進んでいるのだが…今日がクラスの掃除当番だとしても遅すぎだった。


「…豪炎寺。今日円堂は掃除当番だったよな?…ちょっと様子を見てきてくれないか?」


そう言ってきたのは鬼道だった。丁度昨日のケンカの件といい気になっていたところだ。俺はすぐに了解すると教室に向かって走りはじめた。

夕刻の教室は昼間とは異なり静まり返っている。それもそのはず普通であればクラスの掃除もとっくに終わり部活に参加しないものはすでに帰宅しているのも当たり前の時間なのだ。これが円堂ではなかったら帰ったといわれても仕方ない時間帯なのだが……今日は参加しないなんて事は一言も聞いていない。大体ケンカをしようが何をしようがグラウンドが使えない日以外は一度も円堂は部活を休んだことはなかったのだ。休日でさえ自主練習を欠かさない男なのだ。間違い無く円堂はまだこの学校内に居る。そう思ってクラスへ続く廊下を歩いて居ると教室から声が聞こえるのに気付く。その声は間違い無く


「……っ!…」


話し掛けようとして息がつまる。教室のドアは開けっ放しになっていてそこにはやはり見慣れた後ろ姿と…その前には見覚えのない女子が居て………この状況は嫌でも分かってしまう。普通…友人なら多少少なからずやっかみはあるものの最終的には祝ってやるんだろうしなんでもない出来事だろう。でも……………何故か俺は頭に血が上って…気付けば足は勝手に不粋にも二人の間に入り込むと円堂の手を強く引いていた。


「ちょっ!豪炎寺っ!!なにすんだよ?!」


引かれて教室のドア付近まで連れていくとさすがに状況の異質さに気付いた円堂に手を振りほどかれる。その声で正面に立っていた少女も状況に気付いたらしくおどおどしながらも円堂の傍へ来ようとする。その態度が………………気に入らなくて仕方なくて……再び円堂の手を引き少女から引き離す。当然ながらそれに驚く少女に俺は無常にも言葉をぶつける。


「円堂はお前とは付き合わない。大体大好きなサッカーの練習を邪魔するような奴を好きになるはずなんてないからな。諦めて早く帰れ。俺は円堂を呼んでくるように言われてる。」


そう言ってやると唖然とする少女が瞳の端に涙を浮かべているのを確認するとそのまま同じように唖然としている円堂の手を引いてそのまま教室を後にした。





「…豪炎寺。何であんなこと言ったんだよ。」


沈黙のまま部室まで連れていくと円堂はやっとカバンをロッカーに置きながら口を開いた。その言葉に一旦引いたはずのイライラした気持ちがぶり返しそのまま衝動に任せて肩を押すとロッカーに身体を押しつけるようにして相手の行く手を塞ぐ。手荒いその行為に当然ながら予想などしていなかった円堂は息を詰めこちらを見ている。その瞳はまるで俺を攻撃しているような怒りが宿っていて……その事実に深く傷つく自分と………暗い感情が芽生える。


「……何でだって?…わからないのか?」


その言葉に円堂には眉間に皺がはいる。それを見ると沸々と煮えたぎるような感覚と…………マックスの言葉が脳裏を過り…………俺は衝動に動かされるまま………唇を合わせていた


「んっ!むっ!?………っ!!はぁっ」


驚きと衝撃に必死に拒否を突き付ける円堂は俺を突き飛ばそうと躍起になるがそのまま感覚と知識のまま唇の端から舌を潜り込ませ好き勝手口内をかき回してやると円堂の身体から力が抜けていき、その事実に………………俺は間違い無く浮かれていて………

あぁ………こういうことか……

唇を合わせながらゆっくりと俺の服を掴んですがってくるような仕草をする円堂を感じながら口付けの後に言うべき言葉が頭の中を何度も回ってくれていた。



END

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