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□第1話
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「追え! 奴を絶対に逃がすな!! 大事な金ヅルだ!」
「あの野郎、見つけたらただじゃおかねぇ!!」
自分のすぐ脇の路地から怒声が聞こえた。
声のする方と反対の向きにひたすら走る。
「どこに行きやがった、あの野郎ッ!」
が、しかし足を進めた先の路地からも似たような怒声が聞こえた。
『ハァッ…ハァッ……。ク、ソッ!』
息が切れる。ろくに何も食べていない体を酷使して走り続けたためか、足がもつれ、少し眩暈がする。
――誰か……助け……
一瞬頭をよぎった甘い考えを振り払うように
頭を振った。
駄目だ。動け、立ち止まるな、走れ、逃げろ。
だが体は言うことを聞かず、ふらりと壁へよりかかった。
運悪くその瞬間、一人の男が自分のいる路地へ入ってきた。
「てめぇ…こんな所に居やがったのか! おい、見つけたぞ!!こっちだ、お前ら!!」
男が呼びかけると、さらにドタドタと慌しく数人の男たちが駆けつけた。
――逃げなければ。
頭ではそう判っているが体が動かない。掠れた声が息と混じって弱弱しく漏れた。
『……ちっ、く…しょ…ッ…』