闇の末裔

□青い炎
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ーー何故このような事をしているのだろう。ーー

巽は自分の置かれている状況が理解出来なかった。
目の前には、あの憎き殺人鬼、邑輝一貴が眠っている。
騰蛇の炎に巻かれ、行方も生死すら掴めなかったはずなのに…。

‘邑輝一貴を回復させる事’
それが今の巽に与えられた使命だった。



「は?、なんと仰せられましたか。」

巽は我が耳を疑った。
十王庁上層部、ー閻魔親衛隊ーからの直直の命令。
逆らえる筈もなく、巽はその理不尽な命令を承諾したのだった。

(都築さんを、黒崎君を、いえ、大勢の人間を苦しめ、冥界に仇なすこの男を看病するなんてーー)

横たわる邑輝は、全身に傷を負い、熱が高く意識もなかった。放っておけばこのまま死に果てると思われた。しかし、十王庁はそれを良しとしないらしい。

‘何故、十王庁は邑輝を助けるのか’
‘何故、邑輝の身柄を確保していたのか’
そして最大の疑問ーー
‘何故、自分なのか’

「…っ、うぅ…。」邑輝の辛そうな呼吸に、頭から離れない疑問を心の隅に追いやって、脇の水嚢を取り替えてやる。

とりあえず、今は使命を全うする事、何もも考えるのはよそう。

巽は事務的に手を動かす。

数日離れた、召喚課の喧騒が懐かしかった。



それから数日後、
邑輝は意識を取り戻した。


「貴方の最愛の人に仇なす私を、回復させるのは、どんな気分ですか?」

身体の包帯を取り替える手が止まる。
「私の意思など関係ありません。命令に従うだけです。それより、余り私の機嫌を損ねる発言は止めていただけませんか。ただでさえ、此処は私の影の結界の中。私の意思に反して、貴方を傷付けてしまうかもしれませんよ。」

幾分、怒気の孕んだ口調で言ったのだが、それでも邑輝は臆びれる様子もなく、それは怖いですね。と愉しそうに応える。
それが癪に障ったが、閻魔の命が重くのし掛かる。

‘傷付けてはいけない’

早くこの任を解かれたい、その一心だった。


台所に立って、腕をふるっていると、余計な事は考えずに、気持ちが落ち着く。
‘食べさせる相手がアレなんて…。’
本当は都築さんに食べて貰いたいのに。そうは思っても、鮮やかな手際の良さで、料理が仕上がっていく。


「いい匂いですね。貴方の料理は全て、とても美味しい、一流のシェフの様だ。召喚課の秘書殿の意外な特技に脱帽ですよ。」
邑輝の称賛に、素直に嬉しかった。
未だ身体が受け付け無いかと、消化の良いものを選んで作ったが、邑輝は残さず平らげた。
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