闇の末裔
□Terrible Two
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閻魔からの急な呼び出しに、何事かと職場を飛び出し勇んできたのに…。
のんきに、幼児をあやす閻魔の姿に、巽は脱力してしまった。
頭は項垂れたままだったが、なんとか気力を奮い起たせて言った。
「閻魔様、余り私用で呼び出さないで下さい。此方とて、使えない部下と頼りない上司の扱いに苦慮しながら懸命に働いているんですよ。それなのに…、」
なんですか、と続きそうな言葉を遮って、幼児が愚図りだす。
「巽ぃ、煩い事は申すな!大人が喋ると愚図る。自分が構って貰いたくてな。」
非は自分にあるかの様に言われて、口を嗣ぐんだ巽に、
「子閻魔じゃ。」
「はぁ?」
「余りに暇なんで、大あくびをした瞬間、気が緩んで生み出してしまってな。」
「はぁぁ?」
「まぁ、そういう訳で頼んだぞ!」
「何言ってるんですかぁ?あぁ?」
忙しくて猫の手も借りたいってのに、自分の不始末押し付けるなんて、信じられない!と怒気の孕んだ口調で返すと、
「旦那は元気かのぅ?」
!!
意味ありげにに言われて、巽の頭から湯気が出るかの様に顔が真っ赤になり、動かなくなった。
「去らばじゃ!」
そう言い残して、閻魔の気配はその場から消え去った。
「あれ〜、どうしたの?その赤ちゃん、かぁわいい!」
「頬っぺたプニプニだぁ!」
課に戻ると、同僚達が赤子可愛さに集まってくる。
「あーもー、散ってください。皆さん仕事して下さいよ。」
閻魔の一言に、言い返せなかった自分が腹立しい。
「ねー、どうしたのこの子?巽の子?」
「なんやて!しかしこの真っ黒な髪の色からすると、浮気したんか?!巽!!」
お馬鹿な二人には、影の制裁をくわえて、巽は事の経緯を話す。
ーー ……。ーー
皆、関わりたくないので、各々の仕事に戻って行くが、此の状況を把握してない&面白がっている約二名は、しつこく赤子に構って泣かせてしまった。
ぎゃーーーっ!!!
!!!
耳を裂くかの様な、大音響に、
「仕事にならん…。」と項垂れて、力無く呟いた課長の心中を察し、巽は早退する事にした。
「頼まれていた物、用意しておきましたよ。
大変でしたね。」
出迎えてくれたこの家の主は、事前のメールを読んで事情を知って、巽に労う様に声を掛けてくれた。
「ありがとうございます。あんな急な頼みだったのに、オムツ等々、よく集められましたね。大変だったでしょう?」
「貴方の立ってのお願いです、なんでもききますよw
でもそのかわり…。」
「邑輝さん…。」
魅惑的な視線を投げ掛けられて、邑輝の求めるまま唇が重なるその時…
びぇぇーーーーん!!
固まった二人。
一気に現実に引き戻され、
「あ、オムツですかね。」
「お腹空いてるのかもしれませんね。」
「私、コーちゃんの食事を作りますから、相手をしてあげて下さい。」
そう言って、消えた キッチンの方と赤子の顔を見比べて、邑輝はため息を一つ漏らした。