闇の末裔
□月桂
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月の光を浴びて、浮かび上がる、
絡み合う二つの影ーー。
激しく求め合って、お互いの心が満たされたーーーー筈なのに…。
躰の高揚感が収まると同時に、心の焦燥感が襲ってくる。
「この気持ちを、どう貴方に伝えたらいいのでしょう。欲していたものが手に入ったというのに、指の間から零れていってしまって、手元には何も残らないなんて…。」
苦渋に眉をひそめた邑輝の頬に、そっと巽は手を伸ばした。
「大丈夫です。私は此処にいますから…。永遠に、ずっと貴方の側に…。」
伸ばされた手を、強く握りしめ、己の口元へ持っていく。
下に組み敷いた躰は、月光を浴びて、淡白く発光しているように見えた。
「貴方とこのまま、月の世界へ行けたならーー、貴方を永遠に愛していられるのに…。」
変えられない現実が、二人に重くのし掛かる。
明日には、邑輝は巽の事を忘れてしまうだろう。
昨日の巽も、今、愛し合った巽の事すら消えてしまうのだ。
「ふふ、おかしいでしょう?私は昨日の自分にも、明日の自分にも嫉妬している。」
「…っ、」
邑輝が、巽の手の甲に歯を立てたーー。
「行きましょう、一緒に。月の世界へ。」
人も、死神も。
生命も、閻魔もーー。
何もかも忘れてーー。
‘月の世界へーー。’