闇の末裔
□犬の居る風景
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桜も散ったというのに、季節外れの冷たい雨が降った日の夕刻ーー。
勤務を終えて、自宅のあるマンションのエントランスを通ろうとしたとき、ふと入り口の生垣の根本に、小さい黒い塊を見付けた。
ソレは、冷たい雨に打たれ、冷えきってガタガタ震えている。開いた瞳は紫色で私を惹き付けたーー。
そっとソレを両手に抱えコートの懐へ入れてやる。
一瞬、家で待つセイイチロウの事が気になったが、気の優しいあの仔なら大丈夫だろうと、ソレを持ち帰る事にした。
「だだいま。」
と声を掛けると、奥からセイイチロウが駆けよってきた。
目を輝かせ、頬を高揚させて
‘待ってたんだよ!’、‘帰って来てくれて嬉しいよ!’
という気持ちを全身で表現して出迎えてくれる。
そんなセイイチロウに嬉しくなって微笑み掛けると、‘あれ?’という表情で、私をクンクン嗅ぎ始めた。
あぁ、と気が付いて、私はコートの中から、先ほど拾ったソレを見せる。セイイチロウは興味津々にソレの匂いを嗅いでいたかと思うと、ペロペロと毛繕いをし始めた。
‘相性はいいみたいだ’
ほっと胸を撫で下ろす。これなら多頭飼いも大丈夫だろう。