闇の末裔
□虹の玉
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「ねぇ、『虹の玉』を探してみませんか?」
ベッドの中、気だるい雰囲気を纏っていた巽が、ベッドヘッドに寄りかかり煙草の煙をたしなんでいた邑輝に声を掛ける。
煙草の灰を心地よいリズムで灰皿に落とし、少し相手を待たせてから、ニヤリと目元を上げて巽に視線を向けた。
そのワンテンポ置いた動作に、苛立ちを感じたけれど、ここで声を荒げては相手の思うつぼだと、気付かない振りで話を続けた。
「貴方と私なら、信頼している者同士、『虹の玉』を見付ける事が出来るでしょう?なら…。」
懇願を含ませた声音で、邑輝に問う。だが、邑輝に視線を向ける事が巽には出来なかった。
そんな巽の心中を察してか、邑輝は然もすればキツイ、冷たい、と取られ易い色彩の薄い瞳を閉じて、紫煙を深く吐き出してから、『何故ですか』と返してきた。
そう、この問い掛けも、返答も。
何時も同じ、分かりきった事−−。
それでも、巽は繰り返す。
「貴方を失う事なんて、耐えられないんです。だから…」
毎回繰り返す問い掛けに、邑輝も同じ答えを返す。
暗闇を怖がる幼子を、大丈夫だと宥める様な、慈愛に満ちた笑みを浮かべて。
「巽さん、大丈夫ですよ。私の心は貴方と供にある−−。」
その邑輝の、柵も蟠りも、吹き飛ばした嵐の後の晴天を思わせる迷いない態度が、巽を切なくさせる。
「例え、生きる屍に為ろうとも。永遠に変わらぬその姿の、脱け殻だけでも傍に置けるのなら…。」
巽の頬を、熱いものが伝った。
「ぁ…愛して、います…。」
巽を愛しみ、涙の後を拭う様に、唇を落として。
何度も頭を撫でてやる。
「巽さん、貴方が教えてくれたんですよ。『命ある物は、消えて行くからこそ美しい』とね。心の無い器なんて、意味など無いでしょう。」
分かっている。
解っているのだ。
それでも−−。
何度でも繰り返す。これは私の我が儘だ。
そして律義に返される答えに、安堵するのだ。
「私も貴方を、とても愛していますよ−−。」