闇の末裔
□これから…。
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「さぁ、此処に行きましょうか?」
特に行き先を決めていなかったので、邑輝は巽に伺いを立ててきた。
「人の気のない所に行きたい…です。」
「…わかりました。」
邑輝は、巽が疲れているので、その様な事を言うのだろう、と思っているのか、特に深く考えてはないようだった。
ーーハァ、緊張します…。
特にBGMも流していない車中では、やけに自分の胸の高鳴りばかりが、耳に付く。
何か話そうとしても、緊張して何も思いつかない。
邑輝からも、話しかけてこないので、車内は重い沈黙が制していた。
邑輝は都筑の恋人だった。
始めは反対して、いろいろと邪魔していた巽だが、二人が本気であるのが分かり、また邑輝も都筑の事を大切に愛でているのが分かったので、二人の事は黙認していた。
それでも、長い付き合いの、家族然のあの人を、かっさらう様に奪って行った邑輝が許せなくて、偶々地上に上がった時に、偶然出会った邑輝に、あんなことを言ってしまったんだと思うーー。
「邑輝一貴!私と勝負なさいっ!!」
「勝負…、ですか?」
あの時の、銀色の人のすっとんきょうな顔が忘れられない。
とにかく、私はなんでもいいから、邑輝に勝る何かが欲しかった。
都筑さんを奪われた悔しさ。それはまるで、娘が結婚相手を連れてきた時の、父親の心境だった。
‘父親を倒して娘を奪って行きなさい’
それから、チェス、オセロ、ポーカー等の各種ゲームから、ワインの利き酒、円周率の暗記と、ありとあやゆる勝負をしたが、何時も良い勝負で、負かすには至らなかった。
その内に、邑輝との逢瀬が楽しいものとなり、自分の邑輝に対する気持ちが‘恋’なのだと気が付いた。