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□パンドラよりも輝いて
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01.おやすみとおはよう
 しまった、と思った時には白い煙幕に包まれていた。
「おやすみなさい、白馬探偵。いい夢が見られると良いですね」
 にっこりと慇懃無礼な怪盗は口を歪めると、その白い装束を翻して星のない夜の闇の中に飛び行く。情けないことに遠のいてゆく意識下で最後に聞いたのは、中森警部が指揮しているのだろう警官たちの品のない騒ぎ声であった。

「はーくば、何でこんなとこで寝てんの」
 揺り起こされて目を開ければ、呆れ顔。
「何故って君に昨晩してやられたのでしょう」
「だーかーら、オレはキッドなんかじゃねえっての。いつまで寝惚けてんだ」
 冷たいコンクリートの上で一晩過ごしたものだから、身体のそこかしこが痛い上に頭痛までする。眉根を寄せて半身を起こすと、彼は無言で僕の鼻先に手を差し出した。
「早く帰らねえとオメーのばあやが心配して失踪届けを出すんじゃねーの」
 つかまれよ、とぶっきらぼうな声は昨晩の白い装束を纏っている時とは大違いだ。大した変わり身だと独りごちて、だけれどこの白日の許では僕は彼の厚意に甘んじることにした。



02.絶対的な場所
「約束なさい、キッド」
「オメーもしつこい奴だな。オレはキッドじゃないっての!」
「執拗さがなければ探偵などやっていられませんよ、黒羽くん」
「じゃあその名推理を待ってる世界中の人間たちのとこに行ってやればいいだろ」
「そうはいかないよ、僕には君を―――おや、そう睨まないでくれたまえ―――彼を捕らえるという立派な義務があるのだからね」
「そんなの警察に任せとけよ」
「君がそういう事を言うものだから話は最初に戻るんです。……約束なさい、僕以外の人間には決して捕まらないと」
 君を捕らえるということだけが僕の飢えたこの脳髄を満たしてくれるのだからね。


03.喜ぶ姿が目に映る
「おや、日本ではまたキッドが盗みを成功させたようだね」
『そうらしいな。それより、さっすがキッドだな! イギリスの新聞にも載ってんのかよ?』
「いいや? 僕が今読んでいるのは日本の新聞さ。君の動向はこっちにいても掴んでおきたいからね」
『オレじゃなくてキッドだろ?』
「ふ……今はそういうことにしておこう。さて、僕はこれからハイスクールがあるからこれで。君もまだ授業中の筈だろう?」
『分かってんなら電話掛けてくんなっつーの!』
04.なんてキザな台詞
「君が初めてだよ、怪盗キッド……僕をここまで本気にしたのは」
「…………白馬あ、オメー言ってて恥ずかしくねーのかそれ」
 気障ったらしく飾らない分、白々しく聞こえるぜ!


05.おめでとうとありがとう
「どうやら探し物は見つかったようですね、怪盗キッド」
「これは、白馬探偵……。相変わらず、お早い到着で」
「君を捕らえる為ならば例え地の果てからも飛んできましょう。それにしても……とりあえずおめでとうと言っておきましょうか? 君は随分とそれを探していたようですから。そして―――」
 僕の靴音が響く度に彼がじりじりと後退る姿を見ることは、酷く気分が高まった。彼の態度に余裕がないことは、一目瞭然である。
「祝福してくれたまえ、その両手を上げて僕の念願も今この瞬間に―――叶うのだから、ね」
「嬉しそうですね、白馬探偵」
「えぇ、君のおかげで、ね。―――感謝していますよ、キッド!」








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