S/W

□Story of pressure#1
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 季節はそろそろ冬となります。
 日本上空で(一方的に)いがみあっていたシベリア高気圧と太平洋高気圧ですが、前者の勢力が非常に発達中のようです。
「あのさあー、もうそろそろ諦めなさいよ。君、寒いの苦手でしょ?」
「うっせえ。俺はもうちっと此所にいたいの!」
「どうして?」
「……どうしても!」
 短い金髪を呆れたようにかきあげて、シベリア高気圧は肩をすくめて見せました。彼は、目下世界一の気圧です。勢力は強大です。というわけで、実は息つく暇もないほど忙しい人、否、気圧なのです。つまり太平洋高気圧のように小さな気圧にかまっていられる暇などないということです。けれども彼は、毎年毎年飽きもせず日本上空に停滞することをがんばる太平洋高気圧をからかうことが習慣となっておりましたので、今年もこうやって無益なやりとりに興じていました。
 シベリア高気圧が溜め息をひとつついてやりますと、冷たい吐息がひやりと太平洋を脅かします。太平洋高気圧はぶるりと身震い。それもそのはず―――彼は晩秋というのに、半袖のシャツ一枚をはおっただけなのですから。
「さっむ! お前息すんなよ! 凍えさす気かッ!?」
「だから、凍えたくないのならさっ
さと南下しなよ。というか秋雨前線、すでに日本の大半通過しちゃったし、潮時なんじゃない」
「うううるせぇえっ! もももう少しいるっつってんだろ!」
 太平洋高気圧、寒さのあまり声が震えています。それでも引かないのは根性があるというか、馬鹿というか。唇はすっかり青くなり、筋肉のついた腕には鳥肌。流石に哀れに思ったのでしょうか、シベリア高気圧は再び肩をすくめて、彼に歩み寄りました。―――否、哀れになどみじんも思っていないようです。何故ならば自分が近付くほど太平洋高気圧がますます身体を冷やすと承知の上で、敢えてそのように行動していたのですから。
「今年はいつもに増してしつこいね? ん? 何か理由があるなら言ってご覧。兄さんが相談に乗ってあげよう」
「だだだれが兄さんだっ」
「うん? なに、恋人がいいの? いやあ、参ったな、僕には可愛い彼女たちがいっぱいいるのだけど」
「あほかぁぁぁあ! っていうかいっぱいいるのかよ!? この、気圧でなし!」
「ふふ、僕に対してそんなこと言うのって君くらいだよ、太平洋?」
「ぎゃあああ耳元で話すなっ! 凍死するッ」
「あはは、ばれた?」
「ばれた? じゃねぇぇえっ!!!」
 叫ぶ太平洋
高気圧は涙目です。もちろん寒さのため、ですが。
 盛大に取り乱す(いつものことですが)彼に、シベリア高気圧はくつくつと喉を鳴らして笑いますと、
「とりあえず、君、南下しようねー」
 ひょい、と。太平洋高気圧の襟首をつまみ上げたシベリア高気圧は、ぽーい! と軽々彼を放り投げました。
「おわっ! シベリアのばかやろぉぉぉお!」
「うーん、負け犬の遠吠えが聞こえる。冬だねえ」
 こうして日本上空にはシベリア高気圧が居座り、日本は無事冬になりましたとさ。


めでたしめでたし!








気圧擬人化パート1。太平洋高気圧の動きって可愛すぎる

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