S/W

□Story of pressures #2
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「シベリアああああ! てめぇ今日こそ覚悟しやがれ!!」
 今日も勇んで太平洋高気圧は、シベリア高気圧のもとに乗り込みました。
「―――あぁ、ごめん。何かうるさいのがきた」
 どうやらシベリア高気圧はお電話中のご様子。アンティークチェアに腰掛けて長い足を組み、どこか物憂げに受話器を耳にあてる姿はひどく絵になっております。
「うん―――そう、太平洋。ふふ、うん、元気だよ―――声を聞くかい?」
 シベリア高気圧は電話の向こうの人間、否、気圧に言うと、ずいと太平洋に受話器を突き出しました。何だ、といぶかる彼を促して、シベリア高気圧の優雅な笑みはますます深くなります。
「もしもし?」
『―――死ねよ』
「はァっ!?」
『もうさあ、おまえうざいんだよね、うん』
「何をいきなり―――って、てめ、オホーツク海か!?」
『うん。気付くの遅いよ、ばかめ! 僕なんか最初っからわかってたってのにさぁ』
「ったりめぇだろうが! シベリアが俺だって言ってただろ!」
 わなわなと拳を震わせて、受話器に怒鳴りつける太平洋。見て分かる通り、彼は電話相手、ことオホーツク海高気圧と犬猿の仲なのです。
『おまえシベリアに迷惑かけすぎだよ。滅びろ』
「こンのクソガキ! てめぇこそ死ね!」
「こら、太平洋。レディに向かってそんな口を利くものじゃないよ」
 愉快そうに笑いを堪える我等がシベリア、どこまでもフェミニストです。たとえどんなに生意気で一人称が『僕』だとしても、他の女性達と同様にオホーツク海高気圧を扱います。
「るせぇ、シベリアっ! つか何で俺にかわったんだよ。相手がオホーツク海だってのに!」
「ふふ、何でだと思う?」
 にっこり。砂でも吐きそうなほど(太平洋高気圧・談)甘いマスクを更に甘く歪めたシベリア高気圧は、ほらほら電話の途中でしょ? と受話器を指さします。そこで放棄せずに、僅かな遵遵のみを残してまた受話器を耳に当てるあたり、太平洋高気圧はお人好しです。
「おいコラ、オホーツク!」
『何さ、気安く僕の名前を呼ぶな』
「知るかよ。いいか、お前の大好きなシベリア様にかわってやる。感謝しやがれってんだ」
『ふん。僕ははじめっからシベリアに電話してたんだ。割り込んできたおまえなんかに感謝するもんか、ばーかっ』
「〜〜〜っ、この……!」
 太平洋高気圧が罵倒を口にしようと歯噛みした時、ひょいと受話器が彼の手の中からすり抜けました。怒鳴りつける寸前だった彼は
、肩透かしをくらったようにシベリア高気圧を振り返ります。
「なんなんだよ、てめぇは!」
「はいはい、ちょっと静かにしていてね、太平洋。―――うん、そう。それはよかった。……え? わかった、伝えておくよ。それじゃあ、うん。また電話するよ」
 いきりたつ太平洋高気圧の顔面を手で押さえつけて、シベリア高気圧は電話の向こうのオホーツク海に別れを告げます。受話器を置いた時、その微笑はますます愉快そうに、輝いておりました。
「…………何だ、その生温い顔は。気色悪いな!」
「ふふ。オホーツク海からの伝言だよ。聞きたいかい?」
「んなもん、聞きたくなんか―――」
「『お前の秘密、あの人とシベリアにバラされたくなかったら、沖縄産のサトウキビ送れ』………だってさ?」
 太平洋高気圧は口をあんぐり開けたまま硬直します。そんな様子をくすくすと笑いを漏らしながらシベリアは眺めました。
「なんだい、僕に隠し事なんて水臭いじゃないか。お兄ちゃんに話してご覧と言っていたのに!」
「ば………っ、言うかぁぁぁあっ!!」
 赤面絶叫。
 今日も日本上空は平和です。


 この一週間後、大量のサトウキビを手にオホーツク海高気圧のもとをおとなう太平洋
高気圧の姿があったとかなかったとか。




めでたしめでたし!








ツンデレおほーつくは書いてて楽しいなあ、な気圧擬人化パート2。お馬鹿でごめんなさい

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