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□向日葵の影
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「イージスッ、イージス!!」
 ノックもそこそこに部屋に入ってきた少女は、まるで輝くような笑顔でこちらへ駆け寄ってくる。
 ほんのり色付いた頬、大きな瞳と美しいブロンドに華奢な身体。くるくると変わる表情はどこかおぼつかなくて、目が離せなくなる。
「見てっ、新しい隊服よ! 前のより可愛いでしょう?」
 彼女の身体を包む白い装束はタイトで機能性を重視したものだったが、確かに昨日彼女が来ていたそれに比べて遥かに可愛らしい。小柄の男性用のものとは異なって袖口にはリボンがあしらわれ、スカートの裾はフリルが施されている。
「―――あら、もしかして、グライア?」
 アンは目を丸くして言うと、慌てて詫びを入れる。笑顔が忽ち見えなくなってしまう―――勿体無いと、思った。
「気にすんな。……それより、悪かったな、お嬢。『あいつ』に見せに来たんだろう?」
「いいの。ねぇ、グライアはどう思う? 可愛いでしょう」
「ああ、似合ってる」
 はにかむアンはだけれどやはり落胆を隠しきれずにいるようで、愛らしい笑顔には僅かに翳が落ちる。
「それは、お前がデザインしたんだって?」
「そうよ。だって今までの、ちっとも可愛くなかったんだから」
「そう言うほど悪くはなかったと思うけどな」
「そう? ―――イージスも、そう思ってた……?」
 おずおず聞くアンの頬はますます朱がさしていた。―――そんな彼女はすごく、可愛らしいと思う。だけれど同じように、眩しすぎて。
「ああ。こう見えても俺とあいつは、元は同じなんだ。価値観は同じだよ」
「ほんとっ? 嬉しい……!」
 アンは、向日葵のようだ。いつだって可愛らしくて。いつだって眩しくて。

(―――お前はこの笑顔、見ても、影になりたいなんて言うのか?)

 俺はこれほどに焦がれても届かないと、いうのに!!

「グライア? どうかしたの、具合でも悪い?」
「平気だよ―――ありがとな」
「ほんとに大丈夫? すごく、辛そうだよ」
 顔を覗き込まれて、とっさに目をそらしてしまった。アンの蒼い瞳は俺の醜い心を隠さず暴いてしまいそうで、恐ろしくもある。―――だからこそ途方もなく惹かれるのだろう。
「心配するな、お嬢は笑っていればいいんだよ」
 微笑んでやると、アンは少し不服そうに息をついた。








(俺は、どうしたってお前にはなれないんだ!)







…………EnD.



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