S/W

□『さようなら』
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 もう行くのかと問うと、君は頷いて空を振り仰いだ。いつか出逢った時と同じく抜けるような青空はひたすら高く、まるで吸い込まれそうだ、と穏やかな声が笑う。そうか君は嬉しいのだ、僕は視線を落としてその少し、乱れたハシバミの髪の毛を見つめた。柔らかなその髪を散髪してやっていたのはいつも僕だった。僕の髪を君に切らせたことはないけれど。何故って君はひどく手が器用なくせに、センスというものがまるでないのだから!
 じっと見つめていた僕に気づいた君は、なんだいと少し照れたように首を傾げた。なんだい、とは実にご挨拶だな、と思う。別れ言のひとつも言おうとしている友を捕まえて、君はもう話すことなどないだろうというように、不思議がるのだ。何でもない、としかめっつらで答えてやった僕に、そうかと目を伏せた君はどこかいつもと違っていた―――そう、まるで泣き出しそうなのだ。
 僕は不機嫌をおさめて、君に言葉をあげようと思った。結局のところ僕は君には甘くて、そしてやはり君が大切で仕方ないって訳さ!



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