S/W

□不条理
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―――不条理―――


 彼が死んだと知ったのは、葬式の前の日だった。
 交通事故だったという。
『サリー』
 受け取った電報を取り落とし、立ち尽くす僕を気遣うように、僕の愛しい恋人は声をかけた。僕は彼女の豊かなブロンドを抱き寄せて、その首筋に顔を埋めた。

 彼は、素晴らしく優秀な男であった。非常に魅力的であった。―――それ故に、僕は彼とあのような別れ方をしてしまったに違いない。
『不条理だと、言ったか――君は、』
 うわ言のようにつぶやく僕を優しく抱き締めて、愛しい女(ひと)は僕の瞼にキスをくれた。
『まったく、不条理だよ……まさか、お前が―――』
『サリー。落ち着いて、彼のお葬式はいつ?』
『明日だ』
『それなら早く用意をしなければ』
 彼女は僕に比べて、全く落ち着いていた。僕はと言えば呆然としたまま、彼に最後に言ってやった酷い雑言などを思い出しては、組んだ指に顔を埋めて、渋い息を漏らすことしかできないのだ。
 全く彼の言うことは的を得ていた。この人生は不条理ばかりだ。
 明日の今頃は、僕は闇色の装束を纏って沈んだ顔で葬式に参列しているに違いない。―――果たしてその時に僕が泣くことを彼は赦してくれる
だろうか、と、僕は自分の手の平に、凝……っと自問した。






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