S/W

□存在認識
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 僕らが知覚している世界は、ひどく不確かなものだよ。その空白を僕らの脳で創造し補いながら認識というものは成り立っているんだ。

 でも、かのイマニュエル・カントは言っただろう?

 存在が認識に優先するのではなく、認識に優先するのではなく、認識が存在に優先するのだと。

 そうと考えるならば―――今この部屋には僕とハワード君しかいないけれど、ただ認識されていないだけで、もしかしたら本当はもっと他に『いる』かもしれないよね。馬鹿馬鹿しいと思うかい?だけれど恐らくは、そう感じることこそ馬鹿馬鹿しいことなのだよ、ハワード。

 僕らの知覚能力を過信してはいけないよ。そこらのポンコツ機械にさえ劣る、欠点だらけの能力なんだ。


 ねえ君、もし僕が君の前からいなくなったら―――否、僕が君を置いて死んだのだとしたら、それは僕自身が死んだのじゃあないよ。君が僕という存在を知覚出来なくなったのさ。

 僕はこうして今のように君の前に座って話しかけるのに、君は真黒い服を着て僕のことを思い出しては泣くのだよ。


 ―――そのように哀しい顔をするものじゃないよ。君が悪いのではない。これは我が種族の越えがたき壁なんだ。
 そのような日がなるだけ遠いことを祈るしか出来ない―――人間とは本当に、脆いものだとは思わないかい。









たとえば其れが世界の終わりでも










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