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□RaiNY niGhT
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―――滴る雨粒、
嗚呼、そういえばあの日も、こうして雨の音が私の耳を犯していた。
鮮烈に蘇る痛みと、恐怖。
ぬかるんだ地面のせいで汚れた、見慣れた黒い革の靴や、泥が跳ね上がった裾を眺めて、彼の帰還を悟った。助かった、と確かに呟いたのを覚えている。
あれほど、死にたかったのに、あれほど―――生が、憎かったのに。確かに私は、呟いたのだ。己の生存を、喜んだのだ。
―――しかしそれは、すべてが彼の為に。
『嗚呼、リョウ、雨が』
『雨が降っているんだよ、ねえ』
『雨が……雨が、』
『恐ろしいんだ、ねえ、リョウイチ………、私の耳を塞いでくれ』
『お願いだ、私を、助けて』
仕方がないと言って、私に腕を伸ばす彼がいなくなったのは、いつのことだったろう。
私が徒に存在しているだけのモノになったのは、いつのこと、だったろう。彼の為に恐怖した死なのに、彼が居なくては生きている意味などないのに。
―――もう彼は、私に微笑んではくれない。
雨が降る度に、私は遠い記憶の裂目に独り怯えている。伸ばされる腕は、何処にもないのだ。
此れが、罪深い私への裁きなのだろうか。彼の怒りなのだろうか。雨が降る度に耳を塞ぎ、暗い部屋の角に蹲る。救いがなければ希望もない。―――張り詰めた空気だけが、静かに私を抱擁した。
迎えに来て。今すぐに
サイプリスはリョウの死後心が病んでいたんです
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