Kanon

□終わりゆく年と、二人の始まり
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「今年ももうすぐ終わりだね〜」
「あぁ。そうだな」


 炬燵に入って名雪と向かい合って座っている。



 こんな風に誰かと新年を明かすのは久しぶりかもしれない。




「今年はいろんなことがあったね…」
「そうだな」



 七年前に遊びに来ていたこの町で名雪と再会して、一緒に暮らし、そして恋人になった。



 いろいろあったけど、凄く嬉しくて、楽しい一年だったと思う。



「…名雪…?」
「…ん…んにゅ……?」
「寝てたのかよ…」
「ふぁあ…ごめん…」



 欠伸をして座りなおす。



「今、何時…?」



 眠そうに目を擦っている。



「十一時四十七分。…大丈夫か?」



 ふらふらと頭が左右に揺れている。



「ん…だいじょ〜〜…」
「うおっ!」




 頷いた拍子に名雪の頭が前に倒れそうになった。



「…ぶだよ」


 だが間一髪で元の位置に戻っていった。




「後十三分だ。頑張れ」
「ぅん……すぅ…」
「って言ったそばから!?おいっ!名雪っ!」



 肩を掴んで思いっきり揺らした。



「んにゅ〜〜…」
「名雪っ、後十分だぞっ!起きろって!」
「じゅっぷん……」




 パンパンと自分の顔を叩いた。



「んにゅ…ありがとー。祐一」
「礼には及ばんさ。にしても、なんで起きとこうって思ったんだ?去年とか寝てたんじゃないのか?」
「うん、去年は寝てたけど、でも…」



 そこで話をきって真っ直ぐに俺を見つめてきた。



「今年は、祐一がいるから」



 そう言ってにっこりと笑う。



「祐一と一緒に年を明かしたかったの」
「そっか。それじゃあ後五分の辛抱だな」
「もう大丈夫だよ〜…」




 名雪は苦笑してたくさんの時計の方に目を向けた。



 ゆっくりと時間が流れていく。



 部屋に響く無数の秒針が進む音。



「ねぇ…祐一」
「ん?何だ?」
「……………」
「名雪?」



 開きかけた口を閉じて言いづらそうに顔を伏せた。



「やっぱり、なんでもない」
「そっか…おっ、後一分だ」



 気付けば来年まで一分を切っていた。



「祐一、カウントダウンしない?」
「そうだな、しようか」



 そして二人して数を数え出す。



 四十秒から始まって段々と減っていく。


「十二、十一、十ッ…」



 そしてついに一桁に突入。



「九、八、七、六…」



「五、四、三、二、一ッ!」



「あけましておめでとう、名雪」
「あけましておめでとう、祐一っ。今年もよろしくねっ」
「こちらこそよろしくな」



 お互いに頭を下げて、新年の挨拶を交わした。



「あははっ」
「な、何だよ。急に笑ったりして気持ち悪いな…」
「ごめんね、でも嬉しくて」
「そんなに俺と一緒にいたかったのか?まったくしょうがない奴だな」



 やれやれと首を振る。



 冗談のつもりで言った一言に


「うん、ごめんね」


 名雪は頷いて謝った。



「でも…祐一とはずっと一緒にいたいよ。いまだけじゃなくて、ずっと…ずっと……これってわがままかな…?」



 上目遣いで見上げてくる。



 そんなに素で返されるとは思ってなかったので、一瞬戸惑ってしまった。



「そんなわけないだろ。俺だって、その…ずっと名雪と居たいと思ってる」



 顔をそらしてそう答える。



 嬉しそうに頬を緩ませた。



「祐一…」
「何だ?」



 顔を赤くしてうつ向く。


「どうしたんだ?」
「えっと、その……」



 どうにも言いたいことがあるようだ。


 俺はジッと名雪の言葉を待った。



 やがて決心をしたようにパッと顔をあげた。



「そ、そっちに言ってもいいっ?」
「…へ?」


 思わず首をかしげた。



 ジッとこっちを見つめて俺の返事を待っている。



 そっちに行く。



 つまりこっちに来るってことで…。



「祐一……?」



 その表情が不安に曇った。



 えっと、だからつまり隣に並ぶってことだよな。



「……だめ、かな…?」



 ねだるような瞳。



 分かっていたことなのに、理解するのに時間が掛かりすぎた。



 そう、最初から俺の答えは決まっていた。



「いいよ。名雪」


 優しく微笑んで名前を呼んでやる。



 パァッと名雪の表情が明るくなった。



 並ぶように隣に座って炬燵に入った。



「えへへ」



 嬉しそうに身を寄せてくる。



「…祐一、ずっと、一緒にいたいよ…」
「あぁ、ずっと一緒にいよう」



 肩に頭を乗せてきた。



 俺は名雪の肩に手をまわす。



 そのまま見つめあい。



「名雪…」
「祐一…」



 互いの名前を呼んで、キスをした。




「初キスだな」
「あははっ、そうだね」
「それじゃあ…」
「わ、わぁっ!?」


 そのまま名雪を押し倒した。



「このまま、姫始めといきますか」
「うぅ〜…祐一のえっち……」


 そういうものの名雪は抵抗しない。



 寝間着越しに名雪の胸に触れる。



「ん…ぁ、祐一…」


 くすぐったそうに身をよじらせる。


「祐一…まって…」


 手を止めて、体を離した。


「ベッドの上がいいよぉ…」


 真っ赤になってポツリと呟く。


「あぁ、ごめんな」


 名雪をお姫様抱っこしてベッドの上に横たわらせる。


 その上に覆いかぶさるような形でのって、


 見つめあい、


「ん……」


 今度は、深い深い口付けを交わした。






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