Kanon

□いつまでも…
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 静かな部屋

 カチカチと時計の針の音が聞こえる。

 あと、少し…。

 待ち遠しい。

 毎日この時間は絶対に部屋にいる。

 約束の言葉を聞くために。

 カチッ、と時計の針がちょうどその時刻を指した。


『名雪…』

『俺には、奇跡は起こせないけど…』

『でも、名雪のそばにいることは出来る』

『約束する』

 目覚まし時計から聞こえてくる彼の声。

 目を閉じてその声にそっと耳を傾ける。

『名雪が悲しい時には俺が慰めてやる』

『楽しい時には一緒に笑ってやる』

 嬉しくて顔がほころぶ。

 何度も聞いてるけどそれでも嬉しくて

『白い雪に覆われる冬も…』

『街中に桜の舞う春も…』

『静かな夏も…』

『目の覚めるような紅葉に囲まれた秋も…』

『そして、また、雪が降り始めても…』

 嫌な事もみんな忘れさせてくれる。

 優しい声。

『俺は、ずっとここにいる』

『もう、どこにも行かない』

『俺は…』

 カチッ…


 突然の音とともに声が止まった。

「あ〜っ!祐一なんて事するんだよっ」

 目を開くと、祐一がスイッチを押して目覚ましを停止させていた。

「あ〜……」

 話さなくなってしまった時計を持って、がっくりと肩を落とす。

「あのなぁ、そう何度も何度も聞くなっての!恥ずかしいだろうが!」
「だって…毎日の楽しみなんだもん……」

 最後の一言だったのに…

「祐一、ひどいよ……ぐすっ…」
「な、泣くなよ…」

 祐一はあきれたようにハァと溜息をついた。

「私、もう元気でないよ……」

 目覚ましを置くと部屋を出た。



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