Kanon

□楽しさの代償
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「祐一さんっ。はい、あーん」
「あーん」

 ぱくっ。もぐもぐ…

「おいしいですか?」
「ああ、栞の弁当はいつ食べてもうまいぞっ」
「ありがとうございますっ」


 もっとも、状況が状況だから、味なんてほとんど分からなかった。

「祐一…イチゴサンデー…」
「楽しいのかしら…」
「祐一くん…」
「……………」
「祐一、今に見てなさいよっ…」

 名雪、香里、あゆ、舞、真琴がそれぞれ、よくないオーラを発している。

「あははー……」

 佐祐理さんはそんな中で苦笑いをしていた。

 あの中心で、正気を保っていられるなんて、さすがは佐祐理さん…。

 と、感心ばかりしていられない。


 説明しよう。

 現在、腕を骨折した俺に、栞がご飯を食べさせてくれているところ…

「祐一さん。どうしたんですか?」

 栞はあちらの状況には気付いていない。

 早く何とかしないと、佐祐理さんがオーラに飲み込まれちまうぞ…


「栞…」
「はい。何ですか?」

 気がつくといつの間にか、舞が栞の後ろに立っていた。

「毎日毎日、食べさせてあげてるけど…。栞も疲れるし、それに今日からでも祐一は、左手で食べる練習をした方が思う…」

 確かに的を射た意見だった。

「えっと……私はそんなことは…」
「そうだよっ、私もそれがいいと思うよっ」
「栞、そうしなさい」
「うんっ、ぼくもそう思うよっ」
「そうそう、真琴もーっ」

 ここぞとばかりにみんなが一気にまくし立てる。

 なんだか知らないが一致団結していた。

「えと、あの……」

 寂しそうにこっちに目を向けると

「祐一さん…」

 名前を呼ばれた。

 彼女が助けを求めている。

 ぐっ…

 普段の俺ならココで落ちていただろうが、今の俺は一味違うぜ…。

 なんたって嫌なオーラをいっぱい浴びてたからな。

 鋼のような精神力だ。

 悪いな栞…。

「私、迷惑でしたか…?」

 涙目で上目遣い。

「全然そんなことないぞっ」

 鋼は崩れ去った。

 いやーっ、鋼って意外ともろいんだなぁ。はっはっは

「じゃあ、また祐一さん食べさせてあげますねっ」

 満面の笑顔。

 嫌だと言えるわけがなかった。

「はいっ祐一さん。あーん」
「あ、あはは。あーん」

「祐一…イチゴサンデー七つ…」
「…ふんっ……」
「うぐぅ…」
「祐一……」
「ゆーうーいーちーっ…!」

 あぁ、佐祐理さんがオーラに飲み込まれていく…

 俺は後々のことを覚悟して、今この時間を精一杯楽しもうと考えた。

 俺は明日。この世にいるんだろうか…

 黒々と渦巻くオーラの中で

「はいっ、祐一さん。あーん」

 栞の声だけが唯一の救いだった。


 神よ。我を守りたまえー……アーメン…。




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