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□daisy chain
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「なぁ、またあの子巫女を助けようとしたんだって」
「もう仕方ないことなのに……あの子たちにとってはまだ受け入れられないことでもな」
格子状の戸の中に閉じ込められた少女の姿を、大人たちは無遠慮にじろじろと見る。少女はそんな大人たちの誰一人とも目線を合わさず、さっき叩かれて腫れた足を見るようにして俯いた。
「まぁ、いつかは彼女らも納得してくれるさ」
遠くから、甲高い悲鳴が聞こえる。この悲鳴を、少女はいつも黙って聞いていることしか出来ないのだ。談笑しながら通り過ぎていく大人たちに小さく舌打ちをした少女は、此処に来て初めて言葉を発した。
「納得なんて……出来るはずないよ」
かみさまなんて、どこにもいないじゃないか。

それでも汚れた両手を組み合わせて暗闇の中見えない空を仰いでしまうあたり、まだまだ自分は何かに縋ってしまうくらいには弱いのだと自嘲気味な笑みを浮かべながら、少女はまた呟いた。

――どうか、彼女を幸せにする人が現れますように。

優しい王子様じゃなくてもいい。強い伝説の騎士じゃなくてもいい。ただ、例えありふれた人間であってもひたすらに彼女を愛してくれるのであれば、それでいい。そんな祈りをどうか、どうか。

少女の祈りは、天に響くことなく大人たちの談笑にかき消された。

『daisy chain』


騒がしい蝉の鳴き声が響く。全く煩いことこの上ない。今は夏真っ盛りで、今日の気温は31℃を超えている。額から汗が噴き出し、大事な水分である家から持参したスポーツドリンクもそろそろ底をつきそうだ。そんな中、俺は眉間に皺を寄せながら一人の生徒を待っていた。
「おはよ、白竜」
塀の上から、1人の女生徒がひょっこりと顔を出した。今俺が一番会いたくて仕方がなかった顔だ。尤も、浮ついたような意味でではないが。
「会えて嬉しいよシュウ。漸く仕事から解放されるからな。ほら、さっさと生徒手帳を出せ」
「会えて嬉しいなんて随分大胆なこと言うんだね白竜は」
ふふ、とからかうような笑みを浮かべるこいつ――シュウに対し、暑さも相まって俺は更に眉間にしわを寄せた。
「だいたい暑くないのか?冬服にタイツなんか履いて。しかも顔だって少し化粧しているだろう、お前」
幾つも『遅刻』と捺された――そのほとんどは俺が捺したものなのだが――シュウの生徒手帳にさらに『遅刻』の判子を捺しながらそう言えば、シュウはすごい、と少し驚く。
「凄い、僕の化粧分かるなんて。妹でも分からない時とかあるのに」
「うちの学校は化粧禁止だ。他の女生徒と違ってスカート短くしないあたりまだいいが、もっと季節にあった格好をしろ。見てるこっちが暑苦しい」
「みんなかわいいって思われたくてやるんだよ。察してあげなって」
手帳を閉じて胸ポケットに仕舞いながらシュウが楽しそうに笑う。額の汗が頬を伝ってワイシャツの胸あたりに落ちた。対してシュウは汗一つ欠いていない。一体こいつはどんな体をしているんだ。
「お前もそういうの可愛いと思われたいからやってるのか?」
ふと疑問をぶつけてみる。可愛いと思われたいからわざわざ暑苦しい格好をしているのなら(俺が口出しする必要がないのは百も承知だが)、それはどうかと思ったのだ。
「んー……半分そういうので半分そういうのではないかな。妹にはかわいくあって欲しいって、そう思ってるけど」
どうしてそこで妹が出てくるのかと俺は疑問に思ったが、結局聞くことなくただそうか、と返した。
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