novel
□prologue
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蝉がうるさい。よくもまあここまで鳴けるものだ。
空は夏特有の入道雲が浮かんでる。
下から見上げる人間はどこか新鮮だ。
アスファルトとともに焼けつくような肌の感覚。
…あれ?なんで私こんなところで倒れてるの?
『夏の始まり』
いつの間にか歩道で仰向けになっていた私の頭は正常にはたらいているようで。
あ、私倒れたんだ。とすぐに分かったのでまともであっただろう。
しかし歩道の真ん中で倒れるということは避けたかったものである。
夏らしく白いワンピースにサマーカーディガンを羽織って歩道で倒れているのは私、上村晴香である。
この暑い中で外出しようと考えた私はなんて愚かだったのだろう。
熱中症と貧血のダブルパンチは正直、つらい。
そんなことを思いながら人目も気にせず仰向けで空を見上げていたら
−突如、頭上に人の顔が現れ、声が聞こえた。
「どけ、邪魔だ」
低く落ち着いていて感情のこもっていない男の声に私は一気に上体を持ち上げ、現実に無理矢理意識を戻した。
辺りがいまだざわついている中、私が男に発した言葉は…
「ねえ!あなた名前なんて言うの!?」
…ひどく常識外れな言葉であった。
「…………。」
私の常識外れな問いかけを華麗にスルーし歩いて行く彼を立ち上がって必死に追いかける。
「ねえ!ねえってばー」
「名前、名前教えてよ!」
「何処行くの?私もついて行く!」
明らかに私と彼との間の温度差が違っていたが、そんなこと気にせずに彼のシャツの裾をきゅっと握った。
「…おい」
「んー?なあに?」
「シャツ、離せ」
「やだ」
「…………なんで俺についてくんだよ…。」
「なんとなく?」
「…‶や"なやつ」
「ふふっ ねえ、名前、教えてよ」
「……神埼、愁斗」
「顔に合わないね。」
「‶や"なやつ…。」
私と神埼愁斗と呼ばれる男は常識外れな出会いをした。
さあ、夏が始まる。