long novel

□ビードロの夜 04
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「…結核?」


病名の二文字をはっきり告げると、その場にいた近藤、土方、山崎は固まった。しかし薄々ながらただの風邪ではないと気付いていたのだろう、疑いの言葉は出なかった。ただ唖然とし、次に段々と顔が白く染まっていく。銀時は膝の上に乗せた拳を更にきつく握り締めた。こうゆう雰囲気は大の苦手だ、けれど脳裏に沖田の姿を浮かべる。
細い手首をなぞって告げた、沖田君の傷つかない場所。聞き終えた後の沖田の表情は、絶望的だった。こんな風に倒れたままではいられないと、沖田自身が噛み締めるようにわかっていたのだろう。


「万事屋、総悟が隠したがっていて、でもお前が話しにきたと言う事は…もしかして、」
「言わなくてもわかるだろう。」


近藤が言い辛そうに区切り区切り尋ねた後に、手の平で顔を覆って俯いた。すると座ったままいた土方が立ち上がろうとする、いても立ってもいられないのだろう。
制さなければ駆け出して知らない病院へと行ってしまっていただろう、銀時は唸りを上げるような低い声で「おい」と声をかける。びくりと肩を震わせた土方は、こちらも見もせずに真剣な顔をする銀時の面持ちに舌打ちをして、大人しく座った。どうして自分達に告げず万事屋なんかに、そう思っているのがありありとわかるが、怯まない。


「俺の居場所を、俺以外の奴に否定されたくない。最初に沖田君がそう言ったんだよ。お前達にその意味わかるか?」


確固たる言い方に土方の方が怯む。
他人から語られる沖田の話は、何だか奥歯で砂を噛むような気持ちにさせられる。ざらざらする。


「沖田君はさ、他の誰に何を言われるよりも、お前達にだけは真撰組から離れろなんて言われたくなかったんだよ。戦えないなんて思われたくなかったんだ。」


死ぬ事への恐怖よりも、居場所を否定される事に恐怖するんだ。
十八歳の少年が、あの細い体を一人で震わせて、折れそうな腕で自身を抱きしめるのだ。


「だからもしも、お前達が結核だと聞いて沖田君を此処へは置けないと言うなら、俺が貰っていくよ。」


もう傷つかないように、今よりもずっと優しい場所へ。
そう言って銀時はようやく堅い表情を崩して微笑んだ。ほんの少し悲しそうに、口元だけで浮かべる笑みに沖田へどのような感情を抱いているのか眼前に曝されたようだ。土方はざらざらする砂が肺にまで入ってきた気がして、唾を飲み込んだ。俺は総悟を連れ去るなんてできない、あいつの思うように此処から追い出すか剣を奪う事しかできない、思い知らされる。


「万事屋、総悟は俺達の仲間だ。あいつがそこまで俺達の事を思ってくれた事は誇りに思うが、やっぱり戦わせるわけには行かない。」


近藤は腕を組んだまま、はっきりとそう告げた。曖昧な答えができない実直な男のまま、その視線すらそらさない。
土方は軽く俯く。


「だが、あいつが此処にいる事を望んでいるのなら、俺達は最期まで見届けよう。この、真撰組という場所で。」


そしてしっかりと頷く、きっとそれは局長という立場からではなく友として、なのだろう。
病気の一隊士を屯所へ置いておくわけには行かない、結核はうつる病であるから尚更だ。なのにそのような判断を下した重みを、銀時はよく理解していた。なので、この思い雰囲気に居た堪れない腹から大きな溜息が漏れる。本題はここからだ。
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