テイルズSS

□恋愛で5のお題
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number1:
失いたくない



目が覚めると、僕はいつもの自室ではない別の場所にいた。だが全く知らない場所ではない。訓練を終えた僕が怪我をしていると、少将がよく連れてきている軍の医療所だった。

(どうして僕…こんな所で寝てるんだろう)

自分がどうやって医療所に来たのかも覚えていない。…とにかく、こんな所で寝ている暇はない。早く部屋に戻って残っている仕事をしなければと、体を起こそうとした。

(……あれ?)

起こした体のいたる所が痛み、呼吸も苦しくて、体を動かそうとしても全く動かなかった。頭がぼーっとしているし、視界もぼやけてはっきりしない。

(僕……どうしちゃったんだろ)
「…シャルティエ?」

不意に名前を呼ばれ、反射的に声がした方を見た。僕の名前を呼んだその人…―地上軍軍医であるアトワイトは、ベットに横になっている僕の顔を覗きこんだ。その表情は見ているこちらが苦しくなるくらい、悲しい顔をしていた。でも僕の意識があるのを確認すると、ホッと息をはいた。
そのままベットの側にあるイスに腰かけた彼女を、僕は焦点のあわない目で見ていた。なぜ悲しい表情をさせてしまったか、僕は覚えてはいないけど…とにかく謝った方がいいのかもしれない。

「あ…あの」
「まだ喋らない方がいいわ。熱がなかなか下がらないし……―少し待っていて」

部屋の外から誰かに呼ばれたらしい……アトワイトは僕に一言話してから慌ただしく部屋を出て行った。もしかしたら他にも患者がいたのかもしれない。
(僕、風邪ひいたんだ…軍人なのに情けないなぁ)
そのまま目を閉じてベットの中で落ち込んでいると、また部屋のドアが開閉する音がした。
(アトワイトが戻ってきたのかなぁ)
「…シャルティエ」
自分の名を呼ぶその声は、アトワイトのように高く透き通った声ではなく、もっといつも身近で聞いていた安心する声だった。
想像もしなかったその人の声に驚き、閉じていた目を開きドアの前に立つ彼の姿を確認してまた驚いた。
そこにいたのは、まぎれもなくその声の主だった。
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