dreamH
□カシスソーダの呪い
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私は何故、こんな状況に追い込まれなければならなかったのだろう。
こんな…こんな…よくわかんない人と二人きりで、
向かい合って、お酒を飲むとか。
ていうか、この人、さっきから全然喋らないし、こっちを見ようともしない。
ずっと、テーブルの一点を見つめて、カシスソーダを飲んでいる。
「あの…その、カ、カシスソーダ、好きなんですか?」
沈黙に耐えかねた私が、そう尋ねると、彼はふと視線をあげて、壁紙でも眺めるような目で私を見つめた。
「その質問には、君があと2回生まれ変わったら答えてあげよう」
「は、はい?」
あまりに意味不明の回答に思わず耳を疑ったけど、彼は意に介した様子もなく、またテーブルをみつめ、カシスソーダをすすった。
まるで、緑茶でも飲むようなずずっという音が耳に響く。
最初は、照れているだけなのかと思ったけど。
これは、まじで、変人なのかも。
私はちょっと怖くなって、及び腰で席を立つ。
あわよくばこのまま家に帰るつもりで。
「あの、私、ちょっと、これから、用事って言うか、その、そろそろ…」
そう言うと、目の前の彼は若干不思議そうな顔で私を見上げ、こう言った。
「こんなに盛り上がっているのに?君は馬鹿か。馬鹿か君は。」
ーーーーえええええ?
どこが、どのように盛り上がっていたのだろう?
ていうか、なぜに、私が馬鹿呼ばわりされなくてはならないのだろうか。
しかも二回も。
しかも二回も。
私があまりのことにポカンとしていたら、その人は口元をほんの微かに歪めた。
カシスソーダばかりのんでいたせいか、その唇はやけに赤い。
しかし何故だかわたしには、それが、彼の笑顔だと理解できた。
いや、もしかしたら、それは、恋のキューピッドが起こした奇跡だったのかもしれない。だって。
だって…。
「どうしても、帰るというなら、私も一緒に君のうちにお邪魔しよう」
そう、わずかにかすれた声で言った彼に、私は何故だか、逆らえないどころか、ほんと、どうかしてると思うけど…。
と、ときめいちゃったのだから…。