dreamD

□背中合わせに恋するボクたち
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「彼氏ができた」
「彼女と別れてん。」

あ、ハモった。
いつものカフェでコカドケンタロウ氏と。

「彼女と別れたの?」
「彼氏できたん?」

あ、またはもってしまった。

コカドケンタロウ氏はじれったそうに頭を掻いて、「なんやねん!」と誰にともなくつっこむ。
彼と私は学生時代の同級生だ。
こうして時々あっては、お互いの近況を報告したり、してる。

「どんな奴や、今回の彼氏。」

コカド氏は猫背でアイスコーヒーをずーっとすすって、そっぽむいたまま尋ねる。

「えっと。青学出の映像クリエイターで、背は高くて…」
「ほんま!?なにそれ!?おしゃれすぎやろ!」
「そうかな。」
「お前いっつもそういう見てくれがいいやつばっかりにだまされおって、」
「だまっ、だまされてないじゃん!」
「いや、いっつも振り回されて終わりやろ?学ばないやつやなぁ。」
「そ、」
「ん?なんや。そうやろ?」
「そういうコカド氏だって、またふられてたんでしょ?」
「う、」
「見かけに弱いの自分じゃん!!めっちゃ可愛い、めっちゃ美人とか自慢しといてすぐ別れる。」
「それは…別に外見に惑わされてるわけでは…」
「とにかく人の事はいえない。」
「ま…そやな。」

コカド氏はまた頭を掻いて、猫背をもっと丸めてグラスに残った氷をストローでつつく。
氷はカラリと音を立てる。

「なぁ。」
「ん?」
「お前今回の男と別れたら。」
「なにそれ。別れないし。」
「別れたらゆうてるやろ。」
「なに。」
「…オレとつきあえば?」
「は!?」

思わずコカド氏を凝視してしまった。

コカド氏は私の視線にたじろいで、急に耳まで赤くなる。

「いや、そんなマジにならへんでもええよ!?」
「な!?」
「ちょっと言ってみただけ、です!!」
「べ、別にいいけど、答えらんない。別れないから。」
「せやね。応援してるわ。」
「なにその言い方。」
「知らんて!やっぱさっきの撤回!!」

コカド氏はなんだか慌てて、「じゃ、オレ仕事やし!ごゆっくり!」と伝票をとり、さっさと会計をして出ていってしまった…。

それが、二ヶ月前の話。



「彼と別れた。」
「彼女ができてん!」

いつものカフェで、いつものようにハモる私達。

「は?」
「なに?」

…なんでこういつもハモるかな。

「もう別れたん?」
「彼女できたの?」

またハモってしまったけど、それを制したのはコカド氏の勝ち誇った笑顔だ。

「お前、もう別れたん?いったやろ、オレ。こないだ。絶対別れるって。」
「べ、別に予言通りってわけじゃない!アイツ実際二股かけてたんだから。最悪でしょ!?ふってやったんだからね!?」
「俺の予言通り!」
「違う!いいよ、もうその話は!!ていうか、彼女って。」
「へへへーん!めっちゃ美人やで。」
「だから美人はやめといたら!?」
「なんやねん!見てるだけで幸せなんやからええやろ!!」
「またふられるのに…」
「違う!今回はちゃんと長続きさせようと努力してんねんて!」
「努力しないでも続くのがいい関係じゃない?」
「う、」

コカド氏は痛いとこをつかれたというように言葉につまる。
私は私で、自分の言葉にちょっとドキっとして口をつぐむ。

努力しないでも続く、関係。
それって、私達みたいな?

「け、けど、努力したってええやろ!?よりよい関係にしたいんやし!」
「そりゃいいけど。」
「なんやねん、その目ぇ!」

私が疑いの眼差しで見つめるとコカド氏は笑って私の頬を軽くつねる。

ー…ね、こないだ。
…私が別れたらつきあわない?って。
…言わなかったっけ?

私は心の中で小さく呟く。
今日はちょっとだけ、期待、したんだけど。

私は小さくため息をつく。

「ばかじゃないの。ケンタロウ。」
「うるさいわ、ぼけ。」

私たちはいつでも背中合わせ。

お互いのぬくもりを背中に感じながらあっちこっちで恋をする。

いつか振り向いて抱き合える日が、来る…のかなぁ?????


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