SSの話置き場

□雨、君が泣いた証。
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「あ、雨だ……。」


雨、ただの雨粒なのに、それは感情を持っているかの様に、
曖昧で、不安定に降ってくる。




「ーーーーーまた、独りで泣いてるの……?」





あの日も雨だった。
空が泣いているかのように、大粒の水滴を、余すことなく落としてくる。


「結構キツく降ってくるなあ。」


私は傘を差しながら、雨の中をのんびり歩いていく。

店の御使いの帰り道。


行きは晴れていたのに、帰りになるとこの有り様。
母の勧めで持ってきた傘が活躍してしまった。



久し振りにゆっくり出来る休日で、
久しく降っていなかった雨を楽しみながら歩いていた。


ふいに、道を変更して、大通りから脇道に入る。

何だか帰るのが勿体無い気がして、雨を存分に楽しむために、遠回り。



「たまには雨もいいなあ。」

フラフラよく分からない道を、宛もなく歩き続ける。



「…………あれ?あれってーー」


脇道から少し外れた更に小道の奥で、人影を見た。
惹かれてそちらに向かえば、ぽかんと空いた空間に出る。



先程認識した人影は、やっぱりナルトだった。

あの、綺麗な金色の髪ーーー。




この時私はまだナルトに対して恋愛感情なんて持ってなかった。
どっちかってゆーと、苦手なタイプだった。


私は、実はイタチさんに憧れていて、彼に興味を持って貰う為に、必死で修行してたっけ。



でも、サクラがイタチさんに興味を持ってるのを見て、諦めた。

サクラと男の取り合いなんて事したくなかったし、
そもそも、そこまで執着があった訳ではなかった。

ただ、子供の憧れ程度だったのだと思う。



だから私は、あっさりイタチさんへの想いなど忘れて、サクラを応援した。

そうしていると、ヒナタも、あんなに邪険にしていたのに、気が付いたらネジに恋してた。


何でも涙にやられたのだとか。

ヒナタ曰く
「好きな人が泣いてたら、涙を拭いて慰めたいって、私が、何に換えても護りたい、泣かない世界を造ってあげたいって、そう思っちゃうよ?」

なのだと力説された。



ーーーーーわからない。





誰かに恋する気持ちが、私にはまだ解らなかった。

所詮、まだまだ子供、と云うことなのただろうか、なんて、
皮肉めいた事も思っていた。



でも、そんな私でも、分かっている事があった。


それはーーーー、

恋する、サクラやヒナタは、
日々とても可愛くなっていっていると云うこと。

恋する女は綺麗、って昔の歌詞でもあった気がする…。


まだ恋を知らない私を置いて、綺麗になっていく二人が、なんだか羨ましかった。

私も恋したいなあ、なんて、一丁前に溜め息突いて、
師匠である綱手様に「まだそれで溜め息突くのは早い!」なんて、小突かれたりしてた。




ナルトだと気付いてから、私は小走りで寄っていく。


すぐ側まで来たのに、ナルトは私に気付かない。
ここで会って、無視していくのもなんだと思って、私は声を掛けようとする。



ーーーーでも、掛けられなかった。



傘を差していないナルトは、濡れていた。

でも、眼から頬を伝って流れるそれは、雨でない事がすぐに分かった。





泣いて、る…………?あの、ナルトがーーー!?


「ナルト」と呼びたかった口を開けたまま、私は驚きを隠せずにいる。

天を仰いで、隠そうとしないその涙は、
何故だかとても、綺麗に見えたーーー。



雨の粒と、涙が混じり合って作る曲線は、
滑らかなカーブを曲がって、ナルトの身体に落ちていく。



男が泣く姿なんて、格好悪いと思ってた。
泣く男なんて弱い、とも。


ーーーーーでも、違ってた。





とても綺麗で、哀しげな涙。

それを流す姿は、美しかった。





フラフラと、ナルトの側に無意識に、近付く。

ただ、側に行きたい本能だけが私の中で渦巻いて、
一歩、一歩と近付いていく。


もう、後二、三歩というところで、さすがにナルトが私に気が付いた。


自然な動作でさっと涙を拭き、いつもの不機嫌そうな顔を作るナルト。




「………、もう、解っちゃったから、無理に顔、作らなくていい、よ・・・?」



気付けば私はナルトを抱き締めてた。


ナルトは、拒むこともせずに、力一杯に抱きすくめる私に、
されるがままの状態だった。



「ーーーーいの・・・・?どうして、ここにーー…。」


やっと発したナルトの言葉は、何だか間抜けな質問で、
私はふっと笑ってしまった。



「多分だけどね、呼ばれたんだ。偶然じゃあ、ないと思う。
ナルトを頼むって、誰かに呼ばれたんだよ、きっと。」


私の台詞に、ナルトは分からないって雰囲気だ。


まだ抱き締めている私を、ナルトは拒まない。
やめろとも言わない。



それが嬉しくて、嬉しくて。




ヒナタ、ごめん。
実は、ちょっと小馬鹿にしてた。
涙一つ見ただけで、そんなに心揺さぶられるのかと。



………うん、そうだねーーーー。


ハンマーで殴られるより、ずっとガツンとした衝撃が来たよ。

ドンって、色々なモノを押し退けて、それは私の中に入ってきた。




恋しい気持ち、切ない気持ち、愛しい気持ち、大切だと想う気持ち………、


沢山、沢山、私の心に埋め込まれていく。



何で泣いてたかなんて知らない。

でも、これだけは思う。



ナルトが泣いていたら、
私は、慰めたいし涙を拭いてあげたい。
哀しみを拭ってあげたい。


ーーーーーーー護りたい、彼を。
涙の雨が降るそんな世界から。





きっと、これが恋をした合図。


独りで泣くあなたに、私は恋をしてしまったの。




雨の日は、あなたが泣く日。
私があなたを慰める日。




雨は感情を持っているかのように、
曖昧で、不安定に降ってくる。

あの時、彼の涙を隠そうとする雨は、
何だか優し気に降っている気がした。


今日の雨は、しとしとと小粒の雨粒が、優しく降っていた。



「……泣いてるかなあ、よし!行ってあげようっと♪」


私は来ていた道を踵返し、ナルトの家へと向かった。



愛しい彼を、慰めに行くためにーーーーー。





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いのがナルトに恋した瞬間。
ネジヒナと展開似てますね。

いのはこの時だけど、多分ナルトは前から好きだったと思ったり。

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