Memories

□April fool
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Desire―願う―

【April fool】

 今日は4月1日、私が待ちに待ったエイプリルフール。軽い悪戯で嘘をついたり、人を担いだりしても咎められないという、何とも魅力的な風習だ。
 しかも今日は日曜日ということもあって、時間を気にせずに騙せるのは、日頃バーダックに泣かされている私にとって好都合。
 さてと、どんな悪戯を仕掛けようかな。
 因みにバーダックは今、いつものようにベッドに寝そべって寛いでいる。私はと言えば、ソファーに座って、どうやって騙そうかと算段を企てているところだ。
 ……あ、いいこと思いついちゃった。

「ねえ、バーダック」

「何だよ?」

「今日一日中私のこと好きにしてもいいよ。バーダックの言うことなら、何でも聞いてあげるからね」

 もちろん、これは彼を騙すための真っ赤な嘘。ホントに何でも言うこと聞いてたら、とんでもないことになりそうだもん。
 さあ、この誘惑に乗ってきなさい。バーダック!

「……ふーん、別にねえよ」

 あれ?
 予想に反して、食いつきが悪い。

「な、何でも言うこと聞いてあげるって言ってんのよ?」

「だから、ねえって言ってんだろ」

 押し問答を繰り返すだけで、さっぱり進展がない。
 うーん、どうしたものか。バーダックが話に乗ってこなきゃ騙すことも出来ない。
 まさか、私が騙そうとしてることがお見通しだったりして。

「ねえ、バーダック。今日何の日か、知ってる?」

「さあ、知らねえな。つーか、さっきから何だよ。普段は言わねえようなことばっかり言ってきやがって。まさか、何か企んでやがるのか?」

 私に疑惑の眼差しを向けてくるバーダック。

「べ、別に何も企んでなんかないわよ」

 緊張で声が上擦る。

「へえ、そうか……」

 一言そう呟いた彼はベッドから降りて、私の隣に腰かける。

「10、9、8、7、6、5」

 何故かバーダックが時計を見ながら、カウントダウンを始めた。

「4、3、2、1、0……」

 時計の針は12時をさしていた。

「さあて、昼になっちまったな。この勝負、オレの勝ちだぜ」

 バーダックは何故か不敵な笑みを浮かべて、堂々と言って退ける。
 そして、彼は私の肩を抱き寄せ、耳元に顔を近づけてくる。

「オレの嘘に気づけなかっただろ。ホントは知ってたんだよ、今日がエイプリルフールだってことがな」

「なっ!? ホワイトデーは知らなかったくせに、何でエイプリルフールは知ってんのよ!?」

「さあ、何でだろうな。それより、さっきのカウントダウンの意味、分かるか?」

「カウントダウンの意味って、どういうこと?」

 バーダックの言っている意味が分からず、私は小首を傾げる。

「エイプリルフールは午前中までなんだよ。そんなことも知らねえで、オレを騙そうとするなんざ、お前は考え方が甘っちょろいんだよ」

「えっ、午前中までなの!? し、知らなかった……」

 せっかく日頃の鬱憤を晴らせると思ったのに、またバーダックに負かされてしまった。
 がっくりと項垂れる私に、尚もバーダックは言い放つ。

「大体オレを言い負かそうなんざ10年早いんだよ」

「うっ……」

 悔しいけど、何も言葉が出ない。

「……ってことで、お前のさっきの言葉、本気にするぜ。もちろんてめえで言ったこと、忘れちゃいねえだろうな」

『今日一日中私のこと好きにしてもいいよ。バーダックの言うことなら、何でも聞いてあげるからね』

「あっ、あれはバーダックを騙すために言っただけであって、決して本心から言ったことじゃ……」

「フン、お前の言い分はベッドの上で聞いてやるよ」

 そう言い切ったバーダックは、私をふわりと抱き上げ、ベッドまで運ばれて押し倒される。

「い、今お昼になったばっかだからお腹空いたでしょ!? 何か作ってあげるから……」

「昼メシはお前。因みにデザートもお前な」

 うっ……今日は益々墓穴を掘っているような気がする。

「さあて、オレを満足させてくれよ。お姫様?」

「いやーっ!」

 必死の抵抗虚しく、バーダックに美味しく頂かれてしまう私なのであった。

END
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