Extra Novel

□孤独な男と孤高の乙女
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‡孤独な男と孤高の乙女‡


01.優しさは強さに入りますか




何もかも手放して、何もかも変容して。
この世に残されたものは薄っぺらな偽善に覆われた深い絶望のみなのだと、そう思っていた。
だから、差し伸べられた手を振り払い、独りを選んできたのだ。

『優しさは強さに入ると思うか?』

いつだったか、顔も覚えていない誰かにそう問われたことがある。

――優しさが強さに入る?そんな訳がない。
強さというものは他人に挫かれぬことに根差す絶対的な力の尺度。
『優しい』だけの人間など、何の力も持たない弱い生き物だ。
自分のような存在を憐れみの目で見つめ、手を伸ばしてきた奴等は、間違いなくその部類に入る。
そもそも、『優しさ』とは、人のエゴから派生したもので、そういった者達は、押し並べて皆、『偽善者』の域を出ないのだ――。

淡々と以上のような答えを返すと、相手の目には、正に自分の嫌いな『憐れみ』の色が浮かんだ。
それが嫌に癪で、苛立ちながらその場を離れた記憶がある。


……何故だろう。
相手に語った答えは紛れもない本音で、いつまでも変わらなかった考えだというのに――あの問い掛けが、頭から離れなかった。


優しさは、強さに入るか?


何度問われても『否』と答えるだろうに……他のものが全て色褪せていく中で、長らくこの問いだけは、鮮明に記憶に残っていた。




……その謎が解けるのは、大分後のことになる。
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