LOVE▲TRIANGLEU
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「…あのう」
「何だよひな」
「どうしたんだコラ」
右からリボーンさん、左からコロネロに尋ねられる。私は俯いたまま、深い溜息をついた。
「…どうしてこっちに三人座ってるの?」
今私達が居るのは、アジトから徒歩20分の所にあるカフェ。京子さんとハルさんに薦められたお店だ。比較的空いていて、私達は店の一番奥の席に案内された。リボーンさんに先に座れと言われ、私が座ったのはソファーの腰掛け。前の椅子に座るかと思えば、二人が真っ先に座ったのは私の隣だった。つまり片方に三人座っているという、かなり不自然な形態なのである。お冷やを運んできたお兄さんも顔には出さなかったけど、不審に感じたことだろう。
「「お前が向こう行け」」
お互いを指差したリボーンさんとコロネロ。どちらも譲りそうにない。自然と本日何度目かの溜息が出る。此処へ来るまでも大変だったのに…。彼らが口論する前に何度話題を変えようと必死になっただろうか。何時もは冷静沈着なリボーンさんもコロネロが絡むと大人から子供になってしまう。お互いに競争心が激しいからどんどんヒートアップするのだ。それこそブレーキのない車のように。…また私がどうにかするしかないみたい。
「だったら私がそっちの席に行きますから…」
「「それは駄目だ/コラ」」
「でもずっとこの状況はまずいでしょう?」
この状態で並んでパフェ食べるなんて…想像してみてフルフル首を振った。誰かに見られたらネタにされそうだ。
「ここはじゃんけんにしませんか?負けた人が向こうに行くってことで」
そう提案すると、二人もよし、やるかとやる気になってくれた。この状況を気にしているのは私に限ったことではないらしい。
「じゃあ行きますね。最初はグー、ジャンケン…」
「苺パフェとチョコレートパフェ一つ。それからエスプレッソお願いします」
「苺パフェ、チョコレートパフェ、エスプレッソをそれぞれ一つずつですね。ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「畏まりました」
深々とお辞儀をしたお兄さんは奥へと去って行った。メニュー表を立てかけた私は、目の前の二人を見て苦笑いしか出ない。
「そろそろ機嫌直して下さいよ」
あのジャンケンで負けたのは私。何でコイツの隣なんだ、お前が向こうに行けと文句を言う二人に、これは勝負だから仕方ないと言い聞かせて席を移動した。それからというもの、二人の顔は不機嫌なまま。せっかく来たんだからこんな雰囲気は嫌だなぁ…。
「なんでそんなに嫌がるんですか?」
「「コイツが嫌いだからだ/コラ」
見事にハモり、つい笑ってしまう。
「喧嘩するほど仲が良いって、まさにコロネロとリボーンさんのことですよね」
戦闘の時も息がピッタリだし、お互いがお互いを信頼しているように見える。彼らはアルコバレーノという使命を担った時(私が生まれる前に呪いから解放されたそう)からの知り合いだと以前リボーンさんが言っていた。
「良いなぁ…羨ましいです」
「…何処がだよ」
「何も言わなくても通じる関係って素敵じゃないですか」
「俺はこんな奴と以心伝心してないぞ。したくもねぇ」
ハッと鼻で笑ったリボーンさんに負けじとコロネロが言い返す。
「それはこっちの台詞だコラ!」
バチバチと火花を散らす二人。…本当に、素直じゃないんだから。
「ん〜、美味しい!」
一口頬張っては幸せそうに笑うひなを見て頬が緩む。それを隠すようにエスプレッソを啜った。
「お前、本当に幸せそうだな」
「凄く美味しいんですもん」
追加のエスプレッソを頼むと数分もしない内にやってきた。豆は俺のお気に入りと同じようだが、良い珈琲メーカーを使ってるんだろうか。(カフェだから当然かもしれないが)自分で煎れるよりもやはり味が上手い。
「あ、コロネロ」
「何だコラ」
「そっちのチョコ、一口くれる?私もあげるからさ」
苺パフェから一口掬ったひなは、手を添えてコロネロにスプーンを向けた。ちらりと俺を見たコロネロは勝ち誇ったかのような顔をしていた。…うぜぇ。
「はい、あーん」
口を開け待ち構えるコロネロに、ひなのスプーンは近付いていく。
"ぱくっ"
「……甘ぇな」
口の中で苺とバニラの風味が広がる。スプーンを差し出したひなも、今まさに食べようとしていたコロネロもポカンとしていた。
「てめぇ…」
「お前がひなから食べさせてもらおうなんてするのが悪い」
「甘いもの嫌いだろコラ!!」
「甘いものを食う方がよっぽどましだ」
怒りが目に見えて分かる。コイツを怒らせるのは赤子の手を捻るより簡単だ。沸点が低いからな。ふと、目の前から深い溜息が聞こえた。
「…コロネロ」
顔を向けた時に見えたのは、コロネロの口にひながスプーンを突っ込んでいる所だった。当のコロネロですら驚きを隠せない表情だ。
「これでおあいこでしょう?」
ふわりと笑うその顔は、威厳も何もないけれど、俺達に一言も発することを許さなかった。コロネロからももう怒りは見られない。
一旦事態は収まったかのように見えた。
「そういえば、今のって間接キスですね」
「ひなと俺がだろ?」
「それもありますけど…」
この女は何時もの、見惚れる笑顔で恐ろしいことを言い出した。
「コロネロとリボーンさんもです」
「「ぶっ…!」」
コロネロはお冷やを、俺はエスプレッソを同時に吹いた。ひなの顔とパフェにかからなかったのがせめてもの救いだろう。
「…二人とも汚いですよ」
顔をしかめながらも汚れたテーブルを紙ナプキンで拭くひな。コロネロに至っては今だにむせている。
「お前が変なこと言うからだろコラ!」
「私は事実を言っただけ」
その顔は楽しそうに笑っている。…わざとやったのかよ。
「…とんだ小悪魔だな」
「何のことですか?」
いい加減俺らの扱い方に慣れたらしい。迫った時には恥じらって紅潮するくせに、こういう時には優勢のように振る舞う。ひなに弄ばれても悪い気がしないのは、俺がMに成り下がったからじゃなく、ただ単純にひなの笑顔を見られて幸せになれる…そんなありふれた理由だからだろう。
(それにしても、ひなは俺との間接キス気にしてないのか?)
(…どっかの誰かさんのお陰で慣れてるんです)
(そうかそうか…)
(っ、危ねぇだろ!?いきなり発砲すんなよ)
(一回消え失せろ)
(それはお前だコラ!)
(……ハァ)