Love△Triangle
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「……」
「ぐすっ…」
隣の、ひなは涙をボロボロ流している。俺が泣かしたんじゃないかって?ちげぇよ。
『俺は…まだお前が好きなんだ!』
『嘘…嘘よ!だって私は…』
『オイ!そんな男の所へ行くんじゃねぇ!こっちへ来い』
『お前…!また邪魔しに来たのかよ?!』
…何だか俺達の関係を表したかのような映画だな。てっきり俺はアクション映画を選ぶかと思っていた。でもひなが選んだのは恋愛もの。なんだかんだでやっぱり女だなと思った。何度も俺に大丈夫かどうか聞いてきたが、俺は別にひなが見たいやつなら何でも良かった。
でもまさか内容が三角関係の話とは…。ひなはこれを見て何を思っているんだろうか?ちらりと横目で見ると、涙を流しながらすっかり見入っていた。…何も考えてねぇなこれは。
「最後…感動でしたね!」
「…ああ」
まさかヒロインを思いやった彼女の上司が身を投げるなんて…。結局ヒロインと元カレが元通りになってハッピーエンドだった。
「でも…彼が可哀相です」
リボーンさんは何故かと尋ねた。
「だって、結局ヒロインは元カレが好きだったんでしょう?なのに…あの人は一途に想いを寄せていて…。私だったら多分彼を選びますね」
「!!」
「顔も素敵な方でしたし」
何故かムッとするリボーンさん。
「お前の隣の奴は色男じゃねぇってことかよ」
「ち、違います!…あっ」
…墓穴を掘ってしまった。
「なぁ、何が違うんだ?」
「…リボーンさんの意地悪」
絶対この人、わざと顔近づけてる。…言うしかないみたいだ。
「…か、格……す」
「あ?聞こえねぇぞ」
「だから!…リボーンさんは…か、格好良い、です」
勇気を出して言った言葉に、リボーンさんは目を真ん丸にした。…ちょっと可愛いかも。リボーンさんの手が伸びてきて優しく私の髪を撫でた。
「ありがとな」
リボーンさんの笑顔はとても優しい。私まで笑顔になってしまう。
「それで、ツナがな…」
「えっ?そうなんですか…?!」
昼ご飯はひなの好きなパスタをご馳走した。私がお金出しますと言い張ったが、なら此処でキスするぞと脅すと、仕方なく諦めたようだ。
今はのんびり公園で話をしている。俺はダメツナの話を聞かせてやった。ボスの意外な過去を知って、ひなはボスも人の子なんですね、と笑っていた。俺は勇気を出し今まで気になっていたことを聞いてみた。
「…ひなはコロネロが初恋なのか?」
「…違います。一人…居るんです」
今は何処にいるんでしょうね…遠くに目をやるひなは懐かしそうに目を細めた。
「私が五歳の頃…まだ日本からこっちにやって来たばかりのときです」
ひなはゆっくり語り始めた。
父母を交通事故で亡くし、父方の叔父に引き取られた私は、イタリアにやって来た。当然言葉も分からないからいつも叔父の後ろに隠れてて…。それでも私はいつか話せるようになりたい、そう思って叔父に度々教わった。
ある日の夜。出掛けたまま戻らない叔父を心配した私は、言い付けを破って外の世界に捜しに出掛けた。暗い夜道に人影は全くなく、私はもう戻ろうと決意した。でも何処から自分は来たのかさっぱり分からなかった。誰もいなくて淋しくて…。私はわんわん泣いた。その時だった。
『オイ餓鬼。何泣いてるんだ?』
一人の少年が私の前に現れた。黒いスーツに黒いボリサリーノ。格好は大人みたいだけど、まだ青年というより少年だった。
『いえがわからないの…』
『…迷子か』
その少年は日本語を話していて、私は少し安心した。
『お前の家、何か店でもやってるのか?』
彼は私の目線までしゃがんでくれた。
『セルメンティーユこじいん…』
『ああ、あそこなら知ってるぞ』
『ほんとう?おにいちゃん』
私は彼の言葉にぱぁと明るくなった。これで家に帰れる…そう思ったから。
『…行くぞ。ついて来い』
『うん!』
彼は私の小さな手を握って、ゆっくり歩幅を合わせるように歩き出した。
『わたし、ひな!おにいちゃんは?』
『俺は……だ』
その名前だけが頭から何故か抜けてしまっている。どんな名前だったっけ?
「…で。無事に帰れたのか?家には」
「あ、はい。その少年がちゃんと送ってくれたので」
あの後おじさんには怒鳴られるかと思ったら強く抱きしめられた。彼は私のことを本当に心配してくれたらしい。
そして、いつの間にか少年は姿を消していた。
「っつーことは、全く手掛かりねぇんだな」
「一つありますよ」
私はそっと首に下げているネックレスを掲げた。
「その少年が家に着く前にくれたんです」
「リング…?」
文字も何も彫っていない…シルバーのリングネックレス
「あの少年がいつも守ってくれている気がして…肌身離さず付けてるんです」
「…そうか。なかなか良い話だな」
「リボーンさんは初恋の方とか居ないんですか?」
「居るぞ。俺の目の前の奴」
「!!」
告げられた言葉に私は目を大きく見開く。
「言っただろ。俺は今まで誰かを好きになったことがないって」
「リボーンさん…」
あまりにも彼が真剣に見つめてくるから…。私は耐え切れずに立ち上がった。
「トイレ行ってきます!」
急いで公園のトイレへと駆け出す。
ひなが居なくなったのを確認し、俺は見えないように隠して下げていたネックレスを取り出す。俺の手にはシルバーのシンプルなリングのネックレス。そう…アイツが持っているやつのペア。
「まさかアイツの初恋が俺とはな…」
名前を忘れてくれていて良かったような…悲しいような気分だ。
本人に言うべきか?しかし、そいつは俺だなんて言えるほどの度胸はない。ハッ…最強のヒットマンが聞いて呆れる。
「…本当は、あの時俺もお前に惚れたんだけどな」
あの屈託のない…今と変わらない笑顔に俺は引き付けられた。どうすりゃいいんだよ…。ハァと溜息が出た。
とりあえず前々から計画していた次のデートプランを頭に呼び起こした。