Love△Triangle

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「おはようキリ君」

「おはようございますひなさん!」

いつも笑って挨拶してくれるひなさん。あのガミガミ煩いコロネロ長官とは大違いだ。でもこんな美人で優しくても本当に凄い。足も速いし、射撃も正確…なんでも出来る。コロネロ長官と良い勝負だ(もしかしたらコロネロ長官より凄いかも)。



「あ、今日キリ君に話あるんだけど…。良いかな?」

「え…は、はい!!」

何だろうか。まさか告白…!?俺はいつも以上に気分が浮かれた。











「何だアイツ…」

今日のキリは何か違う。何時もならひなが何か言わなければ本気にならないのに、今日は初めから本気だった。他の隊員達も疑問に思っているようだ。



「オイ、ひな」

「ん?」

「アイツに何したんだコラ」

遠くのキリを指差す。



「話があるって言っただけ」

「話…?」

「キリ君がどうして力を出さないのか…もう分かったから」

「!!」

いつの間に気付いたんだろうか。まだ二週間しか経っていないのに…。流石、餓鬼共を世話していただけある。それにしても…何でアイツは浮かれてるんだ?まさか勘違いしているんだろうか。…様子見といた方が良さそうだな。あの、最悪の状況が頭を過ぎる。


「ん?私の顔に何か付いてるの」

「…目と鼻と口だ」

そう言えばひなは可笑しそうに笑った。俺の隣で笑ってくれている…あの日の願いはまだ続いているようだ。








お昼休みになり、昼食の時間となった。コロネロ長官の合図で皆一斉に食べはじめた。今日のメニューはカレーライス。俺の大好物だ。ふと、1番遠くの席が目に止まる。端にはコロネロ長官とひなさん。何時もコロネロ長官だけなら隣に座る奴も居るのに、二人から数席空けて座っていた。




「ふ。オイひな」

「どうしたの?」

「レディが見て呆れる。口にカレー付いてるぞコラ」

「嘘…?!」

どこどこと慌てるひなさんはすごく可愛い。


「俺が取ってやる」

フキンを手に取るかと思えば長官はそのまま口許を拭き取り、指を舐めた。


「コロネロ…?!な、何やって…」

「取ってやったんだから礼くらい言えコラ」

「そういう問題じゃないでしょ?!」

仲良さそうにする二人はまるで恋人のようで。俺はとても気分が下がった。




「…コロネロ長官とひなさん、実は別れてないんじゃねぇか?」

「俺もそう思う。あんなに仲良いしなぁ」

「どういうことすか?」

俺は目の前でひそひそ話す奴らに尋ねた。


「あの二人…五年くらい前に付き合ってたんだよ。二年くらいだったかな…。でもある日突然ひなさんが別れようって言ったらしくて」

「あの時はコロネロ長官落ち込み方半端なかったよな。一年は暗いままだったし…。でもちょっとずつ元通りに元気になったんだ」

「俺達も励ましたしな」

でもあの様子を見る限り仲が修復したようだな、そう言う奴らは嬉しそうだった。他の奴らも温かく見守っている。


…気に喰わねぇ。俺は一人黙々と食べつづけた。











「それで。話っていうのは…」

訓練を終え、私はキリ君を呼び止めた。時刻は夕暮れ時…いつもなら目に留まる海の景色も見向きもしない。



「キリ君。私はね、貴方を躾するようにコロネロから頼まれてやって来たの」

「!!」

とりあえず座るように促すとキリ君は私の隣に座った。


「だから今日まで色々とやってきたの」

「そんな…」

「ごめんなさい。あなたの了解も得ずにこんな…失礼なことを」

「か、顔上げてください!俺は全然気にしてないんですから」

そう言って笑うキリ君。でもその顔は笑ってるようには見えないよ?



「ねぇ、キリ君」

「はい…」

私はじっと彼を見つめた。






「本当は…あなた、コロネロに憧れているんでしょう?」

「!!」

「見てれば分かるよ。コロネロに褒められた時、顔には出さないけど嬉しがっていることくらい」

私は昔から誰かの表情を読み取るのが得意だ。キリ君はリボーンさんと同じくらい顔に心を出さないけど、私には分かった。



「コロネロを憧れているけど、反発したいんでしょう?」

黙ったキリ君に私は続ける。



「彼が怒鳴るから」

「!!」

やっぱりね。私は確信した。



「何があったかは知らないけど…「虐待です」

「えっ…?」

「父からいつも虐待受けて育ってきたんです」

キリ君はゆっくり話しはじめた。



「父親はギャンブルと酒好きで、仕事も無職でした。母がパートで稼いだお金で何とかやり繰りしてきたんです。俺はいつも父から殴られたり蹴られたりしてきました。母も助けてくれましたが、そのたびに殴りながら押し倒して…。言わなくても分かるでしょう?子供の俺が目の前に居るのに。でも母は父を愛してましたから…言いなりのままでした」

「助けは呼ばなかったの…?」

「いえ。俺が7歳の時にようやく生活センターに駆け込んで…何とか助かりました。その後、母は俺の為にパートを増やして毎日頑張ってくれました。俺も出来る限り助けようとして、やれることをやっていました」

キリ君に頑張ったねって言ってあげたい。でも彼の叫びはまだ続いているから…私が聞かなくちゃ。


「そんなある日です。13歳の時に、友達とこの基地で祭にやって来たんです」

「ああ、一年に一回やってるあれね」

「はい。俺達ははしゃぎながら見て回りました。でも…一番惹かれたのが行進パレードでした」

「その先頭がコロネロだった。そうでしょう?」

こくんと大きく頷いた。



「あれから少しでもあの人に近づきたくて…必死に努力して軍人になれました。あの人から指導してもらえるんだ、そう思うととても嬉しかったんです。なのに、」

「コロネロに怒鳴られて、そのうえ鉄拳も喰らった…違う?」

「…そうです。厳しいのは覚悟してました。でも…アイツを…父親を思い出すと…!嫌になって…!」

「コロネロはそんな人じゃないよ?」

「知ってます!でも…!ひなさんだってあの人に惚れてるんでしょう?」

「えっ…?」

突然の質問にうろたえる。



「聞きましたよ。昔恋人同士だったって」

「でも…私は「どうしてなんですか?俺じゃ駄目なんですか…?」

俯いているキリ君の表情は伺えない。




「なんで…いつも…いつも俺が1番じゃないんですか?!母も…ひなさんも…」

「痛っ」

私は勢いよく押し倒された。そのうえにキリ君が覆いかぶさる。あの日のことがフラッシュバックした。




「母には父が1番で…。ひなさんにはコロネロ長官が1番で…。俺はあなたにとってどう想われてるんですか?!」

「私にとってキリ君は大事な子だよ?」

「子供扱いしないでください!!」

キッとエメラルドグリーンの瞳が私を睨んだ。




「俺にはあの…あの親父の血が流れてる。だから…」

「だったら襲いなさいよ」

「えっ…?」

私は怯むことなくキリ君を睨み返した。



「そこまで言うなら私はもう口出ししない。勝手にすれば?」

「…後悔しても知りませんよ」

「私はしない。でも、後悔するのはそっち…あなたの方よ」

この子に私を襲う勇気なんかない。だから私は全く怖くなかった。



「キリ君の尊敬するコロネロが知ったら…ただじゃ済まないと思うけど?」

一瞬。怯んだ隙を私は見逃さなかった。キリ君の身体を反転し、私は浜辺に押さえ付けた。




「甘ったれたこと言うんじゃない!!」

「っ!」

「誰かの1番になりたい…それは誰だってそう願ってる。でもね、その1番になれるのは一人だけよ?」

私はゆっくり諭すように話しかけた。



「でもいつかは誰かの1番になれる。必ずその日は来るものなの」

「ひなさん…」

「私なんかあなたに好きになってもらうような女じゃない…。もっと良い相手はたくさん居るんだから、その人を捜しなさい」

キリ君の頬を伝う涙を拭ってあげる。



「その時は…キリ君もちゃんとその人を自分の1番にして…死ぬ気で守り通すんだよ?」

「は、い…」

キリ君の身体を起こし、そっと抱きしめた。彼が泣き止むまで、私はただ彼の側に居てあげた。












「そろそろ帰ろっか」

「…はい」

「コロネロもね」

…ばれてたのかよ。小さく舌打ちをして俺は岩影から姿を見せた。


「コロネロ長官…」

無言でキリに近づき、手を振り上げる。キリは衝撃を覚悟したのか、ぎゅっと目を閉じた。





「…今日はこれで勘弁してやる」

「い、いひゃいへす(い、痛いです)」

俺が強く離すとキリは赤くなった頬を摩った。


「ほら帰るぞ」

「コロネロ長官」

キリに呼ばれて振り返る。



「俺…もっと強くなります。コロネロ長官みたいに。だから…」

「俺の指導は厳しいからなコラ」

笑うキリは頼もしい一人の男に見えた。



「悔しいですけど…ひなさんは譲ります」

「えっ…?」

「本気で奪ってくださいよ?俺じゃない…他の奴に奪われますよ」

その言葉にリボーンの顔が浮かぶ。俺は口角を上げた。


「上等だコラ!!」

俺の返事に満足したらしいキリは、ひなと俺に頭を下げて走って行ってしまった。



「ふぅ、どうやらお役目御免ね。…コロネロ?」

「ったく。心配させるな馬鹿野郎」

俺は頭を抱えて座り込んだ。慌ててひなが隣にしゃがむ。

「どうしたの…」

「どっかの阿呆が危機感なさすぎるからだ」

「それって…私?」

「当たり前だコラ」

勢いよくデコピンする。打ち所が悪かったらしい。ひなは顔をしかめた。


「あんな餓鬼に押し倒されてんじゃねーぞコラ」

「だってあの子本気に見えなかったから。全く怖くなかったもん」

「じゃあ俺も怖くないんだな…?」

手首を掴んでそのまま押し倒すとひなの顔から笑みは消えた。



「…冗談は止めて」

「冗談じゃねぇ。俺は本気で襲うつもりだぞ?」

「!!」

左手で両腕を頭の上で押さえ付け、右手で隊服に手をかけボタンを外していく。


「や、やだ…」

「お前がまだ本気にしてないからだろ?」

「や、嫌だ!止めてよコロネロ…」

ひなが涙を流し始めて、俺は初めて自分のやっていることを認識する。


「わりぃ…」

急いでボタンをしめ直して、身体を起き上がらせた。



「…馬鹿」

「すまなかった」


「すまなかったで許されるとでも思ってんのか?」


俺目掛けて打たれた弾は、なんとか避けたものの頬に掠った。
俺はキッと目の前の男を睨み上げた。






「リボーン…!」

さっきの弾といい、今のコイツの殺気といい…
コイツ…本気で俺を殺そうとしている…

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