ごちゃまぜ

□第二ボタンの行方
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「みょうじなまえ」

「はい」

担任から名前を呼ばれ立ち上がる。クラスの女子には泣いてる子もちらほら見られた。でも私はこれが最後なんだって実感はあまりない。








「コロネロ」

「はい」

いつもは怠そうにしているのに、今日ははっきりと大きな声で返事をする彼。生憎後ろの列だから顔を見ることは出来ない。…彼は今どんな表情で、どんな気持ちでいるんだろう?私はね、ただ貴方とサヨナラしたくない…それだけを願ってるの。













「じゃあね、なまえ」

「うん。また連絡する」

時間は呆気ないもので、卒業式が終わったのは数時間前。いつも鬼のように恐い担任も、号泣しながら最後の話をしていた。私も友達にもらい泣きしてしまった。最後に彼と話がしたかったのに、彼はいつの間にか消えていた。もっといっぱい話したかったのに…。この後は5時からクラスの卒業パーティー。ちゃんと来てくれるのかな…?




「ハァ…」

「卒業早々、溜息つくなよ」

「えっ…?」

聞き慣れた声がして振り返ればコロネロが立っていた。



「突然居なくなってたし、もう帰ったのかと思ってた」

「…ちょっと用事があったんだコラ」

そう言いながら、コロネロは私の右側、車道側を歩きだした。何時もと変わらない優しさに私の心臓は苦しくなる。



「コロネロは卒業式泣いた?」

「俺が泣くわけねぇだろ」

「でも福地先生だって泣いてたよ」

「鬼の目にも涙ってやつだなコラ」

コロネロとは一年の時からずっと同じクラス。コロネロが所属するバスケ部のマネージャーをしていたし、家の方向も同じだったから行きも帰りもほとんど毎日一緒。部活を引退した後もよく一緒に帰ったりした。すぐ怒るし口は悪いけど、根は優しくて、真っすぐなコロネロに私は段々惹かれていった。気付けばいつも目で追ったり、隣に居るときは心臓が高鳴ったり…ほら、今もそう。
ちらりとコロネロを見ると、あることに気が付いた。…学ランの第二ボタンがないことに。



「…コロネロ」

「ん?」

「…誰かに第二ボタンあげたの」

私がそう尋ねると、コロネロは頭をかきながら困惑した様子を見せた後、小さく呟いた。


「…好きな奴にあげるつもりだコラ」


…好きな人?私は目の前が真っ白になった。コロネロに好きな人が居たなんて知らなかったしそんな素振り見せなかったのに。私は平然を装って笑った。



「コロネロに好きな子居たなんて意外だね」

「…俺だって居るぞそれくらい」

「てっきりボールが恋人とか言うのかと思ってた」

「お前なぁ…」

私、ちゃんと笑えてるかな?



「いつから好きだったの」

「…一年からだコラ」

「へぇ、かなり長いね」

私だってそれくらいの時間貴方が好きだったのに。



「どんな子?」

「…ドジでかなり天然で鈍いけど、優しくて一生懸命な奴だコラ」

「健気な子なんだね」

「…まぁな」

きっと守ってあげたくなるような、可愛い子なんだろう。私とは違って…



「ねぇ、名前何て言うの?卒アルで確認するからさ」

「……なまえには言わねぇ」

「えー!それくらいいいじゃんケチ」

しつこく尋ねてもコロネロは一切教えてくれない。失恋したのだから相手くらい教えてくれてもいいのに。
その後は気まずい雰囲気のまま、終始無言で歩き続けた。あと十メートルで別れる曲がり角…。これがコロネロの隣を歩く最後なんだなって思うと泣きそうだけど彼が居る前で泣きたくない。奥歯を強く噛んで耐えた。


「…三年間ありがとう。大学でもバスケ頑張ってね。それじゃあ」

ありきたりな言葉を述べて、私は右へと曲がった。何時もは彼の姿を振り返るけれど、サヨナラしたくなくなってしまうから…私は前を向いて歩き始めた。














「…待てよコラ」

突然、腕を強い力で引かれた。振り返れば何時もと少し違うコロネロ。


「どうしたの?」

「…お前に言ってないことがあるんだコラ」

もしかして、好きな子の名前かな?今になって聞きたくなくなった。…その子に嫉妬してしまうから。



「目つぶれコラ」

「目?どうして…」

「…いいから」

早く早くと急かされたので渋々目を閉じた。ふと、右手が温かいものに包まれた。…これ、コロネロの手?コロネロが何をしているのかも分からないくらい緊張してしまう。



「…いいぞ。開けても」

目をゆっくり開けても特に変わったことはなく、私は首を傾げた。



「何したの?」

「…手」

「手?」

右手を見ると、固い握りこぶしが作られていた。そっと開いてみれば…









「…え、何これ」

「何これってお前の目は節穴か」

コロネロは眉間に皺を寄せながら、トントンと学ランのボタンがない場所を指差した。



「俺の第二ボタンだコラ」

「えっ…だ、だって好きな人にあげたんじゃ…」

「誰もあげたなんて言ってねぇよ。あげるつもりだって言ったぞコラ」

あの時"好きな奴"に動揺した私はコロネロが何て言ったのかよく聞いてなかったみたいだ。



「でも、それならコロネロの好きな人は…わ、私になるけど…」

「文句でもあるかコラ」

コロネロの顔は冗談を言ってるようでもなく、試合で見せるように本気だった。



「俺はお前が好きだコラ。受け取ってくれるか?」

コロネロの言葉に涙腺が緩み、涙が止まらない。コロネロは優しく笑いながら手で拭ってくれた。




「喜んで!」


コロネロとサヨナラしたくない…その願いは神様にちゃんと届いたらしい。










(えっ…わ、私が好きって知ってたの?!)
(お前分かりやすいからなコラ)
(…穴があったら入りたいです)
(なまえが好きになる前から俺はお前が好きだったからな。分かって当たり前だコラ)
(っ…!)

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