ごちゃまぜ

□100回目の告白
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「先生!大好きっ!!」

「…これで99回目だぞ」

リボーン先生は大袈裟に溜息をついた。


「若い女の子が告白してるんですよ?!もっとときめかないんですか?!」

「…生憎女子高生は圏外だ。もっと大人になってからな」

ぷうっと頬を膨らませるとそれが餓鬼なんだと指摘される。
リボーン先生はただのジョークとして捉えているみたいだけど、私はこれでも大まじめだ。それなのに…


「もう下校時刻だぞ。さっさと帰れ」

しっしと手で追い払われ、私は渋々英語科の教室を後にした。
私には時間がない。だってもう明日が卒業式だから。結ばれないのは当然のことだけど、せめてちゃんと私の気持ちを受け止めてほしい。明日がラストチャンス。どうかこの想いだけでも受け取って下さい…












私がリボーン先生を好きになったのは、私が一年の頃のこと。


『んー、どれにしようかな?』

読書好きな私は、部活が休みの日に初めて図書室にやって来た。中学のとは大分違ってかなり広いし、本のジャンルも数も豊富。


『あっ!あれは…』

友達が面白いよって薦めてくれたやつ。四冊完結の長編恋愛物語り。ラストの主人公と男の人が結ばれるシーンが感動的らしい。私は台に上がって大きく背伸びをして手もぐーんと伸ばした。あともうちょっと…


"グラッ"


『やばっ』

台が傾いて私も体勢を崩す。突然のことに身体が反応出来ず、私は衝撃に備えて目をぎゅっと閉じた。












ふわり。
何かに包まれたような心地で、恐る恐る目を開くと、黒いスーツが視界に広がる。


『大丈夫か?』

そっと立たせてくれたのは一人の男の人。スーツ着てるし先生かな…?


『…すみません。助かりました』

『どれだ』

『えっ…?』

『お前が取ろうとしてたやつ』

私がタイトルを言って指で指すと、彼は頷き、台に乗って軽々と取ってくれた。



『ほら』

『…あ、ありがとうございます!』

『次からは気をつけろよ』
無理して取るなら俺が取ってやるからすぐ言え、私の頭を何度か撫で、彼は去って行った。






『…王子様みたい』

まるで物語りのようだった。一応頬を抓ってみると、かなり痛くて、夢じゃないんだなって認識した。…彼は誰なんだろうか。気になった私は情報通の友達を頼ってようやく彼の正体を掴んだ。
彼はリボーン先生。担当教科は英語。若さとルックスと色気は勿論、頭の良さや英語がぺらぺらなことから学校中の女子生徒からも女の先生からも人気を集めているらしい。いつも周りを囲まれている彼に近付くことは出来なかったけれど、三年になってようやく転機が訪れた。






『英語担当のリボーンだ。よろしく』

念願叶ってリボーン先生の授業を受けられることになったのである。



『じゃあ次の文を…みょうじ、読んでくれ』

『は、はい!王子様!!』

『『『…王子様?』』』

あっ…思わず口が滑ってしまった。慌てて口を手で覆ったけれど時既に遅し。クラス中に爆笑の渦が生じた。



『お前なぁ…』

『す、すみません…』

申し訳なく頭を下げると、良いから早く読めと言われた。私が読み始めても笑う人はちらほら居た。…それでも、それでも私はリボーン先生と数年ぶりに話せたことが嬉しくて、幸せを感じていた。
それから私のアタックは始まる。でも人目につく所だとファンに目を付けられるから、質問しに行くときにこっそりと。何度あしらわれても、何度呆れられても諦めなかった。そして今日…高校生活最後の日。式が終わって、私はリボーン先生を屋上に呼び出した。




「…ちゃんと来てくれたんですね」

「みょうじが呼んだんだろうが」

俺は約束は守るからな、やっぱり最後まで素敵だ。



「で?用件は」

「リボーン先生…」

私は真っすぐリボーン先生を見つめた。リボーン先生もちゃんと見つめ返してくれる。






「私は貴方を愛してます」

何時もは"大好き"だけれど、今日は最後だし、それにちゃんと想いを伝えたかったから。



「別にリボーン先生と恋仲になりたいって思ってるわけではないんです。ただ、しっかり私の気持ちを知ってほしかったから…」

涙が出そうになって思わず下を向いてしまう。駄目だよ私、泣くのは一人になったとき。コツコツと革靴の音がこちらに近づいて来て、リボーン先生の足が見えた。




「…顔あげろ」

リボーン先生に言われ、私はそっと顔をあげた。きっとリボーン先生には今にも泣きそうな私の顔が写っているんだろう。リボーン先生の長い指が伸びてきて、何をするかと思えば、私のリボンをすっと取った。かと思えば、自分のネクタイを取り、ボタンを数個開けた。…一体どういう意味なんだろう。



「お前、卒業したんだよな」

「は、はい」

「つーことは、もう女子高生じゃねぇ。俺もお前の先生じゃなくなったってわけだ」

リボーン先生の言ってることはごもっともだけど、彼が意図していることはサッパリ分からない。



「あのう…」

「俺、お前の告白断る時言ってきたよな。"生憎女子高生は圏外だ。もっと大人になってからな"って」

…今日もその理由を言われるんだろう。私が大人になってもリボーン先生は更に大人になる。だから彼にとって私はいつまで経っても"子供"のまま。





「…何時になったら私を大人の女として見てくれるんですか」

「あ?」

「どうせ先生にとって私はずっと子供なんでしょう?私がどんなに先生を想っていてもそれは冗談なんだろって笑い飛ばすんでしょう?!」

感情的になるのはますます子供であることを強調する。それでも私は本気にしてくれないことが悔しくて、悔しくて…




「私は本気です!リボーン先生がどう思っていようと。だから、「…まだ分かんねぇのか」

「えっ?」

「…一応学校だしこんなことマズイがな。まぁお前はもう卒業したからいいか」

リボーン先生の言葉がどういう意味なのか、頭をぐるぐる回転させた。でも、そんな思考もすぐ吹っ飛んだ。













「…なまえ」

「!今私の名、」

リボーン先生の唇と私のそれが重なる。一度目は離してくれたけれど、二度目からは続けて何度も…。初めてのキスに慣れない私を気遣かってくれたのか、少し経ってゆっくり離れた。



「これで分からないとは言わせねぇぞ」

…今のってつまり、






「…Do you love me ?」

顔色を伺うようにリボーン先生を見上げると、私を助けてくれたときの、あの優しい笑顔になった。




「勿論答えは、"Yes"だ」


涙が止まらない私をリボーン先生は強く抱きしめてくれた。



「リボーン先生、大好き!!」

「…もう先生は止めろ。なぁ、なまえ」

「わ、分かりました。リボーンせ…さん」

私がそう言えば、よくできましたと、今度はさっきの何倍ものキスが送られた。







(…でも、何時も私のことあしらってましたよね?)
(生徒に手出したら問題になって飛ばされるのがオチだろ)
(あ、そっか)
(まぁ、卒業したんだからもう遠慮はしねぇけどな)
(…嫌な予感するんですけど)

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