ごちゃまぜ

□彼にはお見通し
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「っ…!」

突然腕に鋭い痛みが走り、手で抑えたまま膝をついてしまう。そっと見れば、スーツに穴が空き、血が滲んでいた。さっき弾を避けたと思っていたけれど、避けきれていなかったらしい。運が良いことに弾は入っていないみたいだけど、出血量は多い。ポケットからハンカチを取り出し抑えると、白いそれは直ぐに真っ赤に染まった。暫くの間抑えた後、ハンカチを離すと出血は止まったものの、腕は痛いまま。怪我したのが利き腕だからこれから大変だなぁ…。でも一人の任務で良かった。心配性な彼と一緒だったら、面倒なことになっていたはずだ。とりあえずボスに任務完了の報告して、今日は大人しくしてよう。部屋に行くって彼と約束したけど今日は止めておこう。鋭い彼のことだから怪我したって直ぐに分かっちゃうだろうし。メールを送信して閉じた携帯をスーツにしまう。まさか直ぐに携帯が光っていたとも知らずに…













「ふぅ…」

いつもはシャワーだけで済ますけれど今日は肩も凝っているからお湯を張った。怪我した腕を湯につけるとヒリヒリ滲みて痛いから、腕だけはバスタブの外に出した。


「…まだまだひよっこだなぁ」

彼や守護者達ならかすり傷一つなく帰って来る。でも私は時々撃たれたり刺されたりして怪我を負うことが多々ある。それは私が十分に強くないことを意味する。足手まといだけにはなりたくないのに。…駄目だ弱気になっては。もっと強くならなくちゃ。よし、明日は休みだし特訓でもしよう。両頬をパンッと勢いよく叩き風呂から上がろうと足を出した時だった。






"ガチャリ"

洗面所の扉が開けられた。まさかこの格好で出られる訳もなく、再び浴槽に入る。誰だろう、って言っても勝手に人の部屋に、しかも洗面所に入りそうな人なんて一人しか居ない。バスルームのドアガラスにシルエットが浮かんだ。…やっぱりあんたか。



「…勝手に侵入するなんて不審者よ」

「彼氏に向かって不審者だと…?良い度胸してんじゃねーか」

「そもそもメール送ったでしょ。私疲れてるから寝かせてよ」

こう言えば素直に帰ってくれるはず。…でも彼は甘くなかった。



「…お前何か隠してんだろ」

びくん
身体が大きく揺れた。ドアを挟んでいるから相手には見えてないだろうけど。



「任務行く前も言ってたじゃねぇか。"リボーンのお勧め映画楽しみにしてる"って」

「そ、そうだけど…気が変わったの!」

私と同じくリボーンも明日は休み。過去の経験から分かるように、DVDを見終わったら彼は十中八九襲ってくる。その時怪我をしたことがばれてしまったら…とんでもないお仕置きが待っている。一回だけ受けたことがあるけれど、その時は二日身体を起こせなかった。『次、俺が居ない所で怪我なんかしてみろ。仕事は止めさせるし、四六時中俺の部屋で監禁してやる』、これはその時に言われた言葉だ。冗談なんかじゃない。あの目はマジだった。だから怪我したことがばれたら大変まずいのだ。


「何言ってんのよ。私がリボーンに隠し事するはずないでしょう?」

「正直に言わねぇと強行突破で浴室に入るぞ」

…やばい。この男なら蹴破るか銃で割るかして入りそうだ。



「五秒以内に言え」

「ちょっ、「5ー、4ー…」

どっちにしたってばれるなら…



「1ー、ゼ「怪我しちゃったの!!」

私は大声で叫んだ。



「…何処を」

「…効き腕の肘から10p上」

「刺されたのか」

「ううん、撃たれた弾が掠って…。弾は入ってないけどね」

「シャマルのとこは」

「…行ってません」

「バカなまえが」

「…すみません」

俯いた顔が水面に映る。泣きそうな顔をしている私が。どうしよう…私マフィア止めなきゃいけないのかな…








"バンッ"

けたたましい音が聞こえ顔を上げればリボーンがドアを蹴破り中に入って来た。私は慌てて入浴剤で白く濁ったお湯に身体を出来るかぎり浸す。


「…言ったら入って来ないんじゃないの」

「入らないとは言ってない」

革靴を履いたままリボーンはバスタブへ近付いてきた。出来るかぎり後ろに下がるけれど奥行きに限界がある。










「…心配させんじゃねぇ」

一気にバスタブから身体が引っ張り出され、そのまま柔らかいバスタオルに包まれた。リボーンの腕が強く私を抱きしめ、心臓はドクドク高鳴るばかり。



「だって…だって怪我したら止めさせるんでしょ?私止めたくないから…」

人殺しの罪を被ってでもこの道を歩むと決めたあの日…私は一生この業を背負うと決めた。中途半端に終わらせたくない。貴方がこの業を背負い続けるならば、私も隣でやり続けたい。一人だけ表の世界に戻るなんて卑怯だから…



「ああ…あの時言ったやつか。ああ言えば怪我しなくなると思ったから言ったまでだ」

「…はい?」

「確かにお前にはこの世界に居座って欲しくねぇ。だが、」


真っ直ぐ見つめる黒い瞳は彼の本気を物語っている。



「…お前が隣に居てくれねぇと俺は駄目になる」

「リボーン…」

「情けねぇ話だろ?最強と謳われていても一人の女の前ではただの男だ。何かあったら動揺もするし、嫉妬もする」

彼が私をどれほど気にかけ、どれほど愛してくれているのか痛いほど伝わる。私だってリボーンと同じ気持ち。リボーンに関することになれば、何時も以上に落ち着けない。一瞬で冷静さを失ってしまう。
彼に私の想いが伝わりますように…そう願って腕を回して強く抱きしめた。



「怪我したって良い…訳じゃねぇが、必ず言え。どんなに小さなかすり傷だとしても」

あまり俺の心臓を圧迫すんじゃねぇ、その言葉に私は頷いた。



「…ありがとう」

謝るよりも愛してくれる彼に感謝を伝えたかった。リボーンだって謝罪の言葉は望んでないだろう。タオルに包まれた私の手を引き、バスルームから出てそのままソファーに座らせた。机の上には救急箱が置いてあった。彼はそこから消毒液と脱脂綿、包帯と鋏を取り出した。


「腕見せろ。手当てしてやる」

「えっ…どうして此処にそれが…」

「お前が怪我したことぐらい分かってたぞ」

目を見開き驚く私を余所にリボーンは既に消毒を始めていた。



「…何でもお見通しってわけね」

「自分の女のことぐらい把握してるに決まってんだろ」

なんでこの人はさらりと格好良いことを言えるんだろうか。私だったら言葉に出すのを躊躇うであろうことも。負けた気がして少しムカついたから、仕返しに不意打ちでキスをした。驚く彼を見て、そんな一面もあるんだなぁ、もっと色んな彼を見てみたいと思った私は欲張りだろうか。









(手当てありがとう。着替えて来るから待っててね)
(その必要はねぇぞ)
(どうし…キャッ!)
(何のためにタオル被せたと思ってんだよ。脱がす必要がないからだろ)
(は、離せ!!)
(そんなにお仕置きしてほしいのか?この前の比じゃねぇぞ)
(…優しくお願いします)

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